隊服のエロさ

「梓の隊服ってエロいよな」
「……はぁ?」

太刀川さんとの十本勝負の後、ラウンジでくつろいでいると唐突に太刀川さんが口を開いた。あまりにも脈略のない言葉に冷めた声を上げてしまった。ついでに何言ってんだこの男と言わんばかりの冷めた視線を向けておく。それにめげることなく太刀川さんは私を見てもう一度口を開いた。

「梓の隊服ってエロいよな」
「二回も同じこと言わないで」
「さっき10本勝負した時思ったんだよな」
「わかんない」
「見えそうで見えないギリギリな感じがイイ」
「へぇ…そう…」

模擬戦中、時折何かに気を取られるような素振りのあった太刀川さんに疑問を感じていたけれどそう言う事だったのか。丈の短いキュロットは他の女子の隊服と違って見えそうで見えない感じがある。私はそこまで気にしてなかったけど太刀川さんみたいなことを思う人は一定数いるんだなとぼんやり思う。

「生脚は梓くらいだろ」
「言われてみればそうだね」
「まあ他の隊は体のラインがしっかり出るタイプの隊服だからな」
「そういうのが好きなの…?」
「それはそれでエロいって話だよ」
「露出面積が広いことがエロいとイコールじゃねえんだよってこと?」
「そういうこと。ま、露出多ければ普通にエロいけど」

確かに他の女性隊員の隊服はあまり露出が多くない。機能面を重視した隊服が多いのに対して私は完全に自分の好みを優先している。

「女子の生足は最高」
「…そう?うちの学校の女子の足なんか見るに耐えないけどなあ」
「えっ」
「あ、でもうちの学校のはそもそも女子じゃないか。うるさいし下品だし。いくら太刀川さんが馬鹿だって言っても太刀川さんの方がよっぽどマシに見えるレベルで幼稚だし」
「あれ?俺、褒められてる?」
「さぁ?どうだと思う?」
「褒めてんだろ?」
「そうね。じゃあ、そういうことにしておきなよ」

どんどん脱線する話に身を任せる。女子校に夢を見ている様子の太刀川さんに現役で女子校に通っている私が現実をたたきつければ戸惑ったような声を上げる。話の流れで太刀川さんを若干disったけど本人にその自覚はないようで私の適当な誤魔化しにも簡単に騙されてくれた。本当にこの人ちょろい。

「あ、木虎」
「嘘!?どこ!」
「ほら」
「藍ー!!!」
「こんにちは、梓先輩」

会話がひと段落してレモンティーを飲みながらスマホをいじっていると太刀川さんが再度声を上げた。太刀川さんの指さす先に立っていた藍に手を振れば恥ずかしそうに手を振り返して、こちらに歩いてきてくれる。礼儀正しく挨拶をしてくれる藍に可愛いなあ、と目を細める。

「うん今日も可愛い」
「あ、ありがとうございます」
「お、照れてる」
「照れてません!」
「あははっ、可愛い可愛い」
「わっ、!梓先輩!」
「よしよし、可愛いぞ〜」

私は自他ともに認める後輩大好き人間の為、後輩を見つけるとすぐ可愛い可愛いと言ってしまう。それに後輩たちもそんな私に懐いてくれる為、尚更可愛く見える。いつもはキリっとしているけれど私と話すときは少し口元が緩む藍の頭を撫でれば口ではやめてくださいと言うけれど本気で止めようとはしない。そんな姿すら可愛くて仕方がない。

「なんか俺との扱いの差すげぇな」
「当たり前でしょ何言ってんのバカなんじゃない?」

当たり前のことを言う太刀川さんに冷めた目を向ける私と藍。何言ってんのこの人頭おかしいんじゃない。なんて思っていると藍が申し訳なさそうに口を開いた。

「梓先輩、私そろそろ仕事があるので失礼します」
「ああ!ごめんね、引き止めちゃって。お仕事頑張ってね」
「はい、ありがとうございます。こ、今度はその…ゆっくりお話でも、」
「わあ!大賛成!また今度ね!」
「はい。じゃあ、また」
「うん、またね」
「木虎の奴、随分梓に懐いてんな」
「可愛いでしょ」
「俺にはすっげぇ冷めた目しか送ってこないぞ、あいつ」
「日頃の行いのせいでしょ」
「…嵐山隊の隊服も木虎が着るとそこそこエロいよな」
「うちの可愛い後輩をそういう目で見ないでくれる?風間さんに言いつけるよ」
「それだけはやめてください」

申し訳なさげに頭を下げて立ち去った藍を見送っていると隣に立っていた太刀川さんが驚いたような声を上げる。一番最初の話を引きずっているのか、遠くを歩く藍を見て目を細めた太刀川さんを睨みつける。私は別に下ネタだろうがなんだろうが平気だけど私の可愛い後輩にそういう目を向けるのは許されない。風間さんの名前を出した瞬間手のひらをしたように頭を下げた太刀川さんはよほど風間さんが怖いのだろう。今度から何かあったらすぐ風間さんに報告することにしようと心に決めて、残り少なくなったレモンティーを飲み干した。

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