贔屓目

「ねえ、これとこれどっちがいい?」
「梓これ着んの?」
「えっ似合わな」
「槍バカに同意」
「お前ら2人表出ろ」

新しく服が欲しくて雑誌を見ていた私は一緒にいた公平と陽介に服選びを手伝ってもらおうと声を上げた。私が指さす服をチラリと見た二人が眉間に皺を寄せて口を開く。全く考える素振りを見せずに一刀両断された服を見てそんなに似合わないかなあと首を傾げる。

「嘘嘘、似合わないかは別としても梓らしくないの選んだな〜」
「私らしい、とは」
「梓はこっちよりこっちの方が似合うだろ」
「これ?何色?」
「んー…これ」
「あ、可愛い」
「だろ?」

雑誌を見てうんうんと唸りだした私を見て陽介が雑誌を覗き込みながら話し出す。何度かページを行ったり来たりした後、陽介がひとつのページで手を止める。陽介が指さした服はそのページの中でもあまり目立つように載っていたわけではないが、確かに可愛かった。

「陽介すごいね。センス良いね。てか、私の好みドンピシャなんだけど」
「お前いつもこんな感じの着てんじゃん」
「わ〜すごい。彼氏力高すぎかよ」
「いやそれよりこっちの方がいいだろ」
「「……いやぁ、それはない」」
「なんでだよ」

陽介のセンスの良さに驚いていると公平が一つ前のページに戻って載っていた洋服を指さす。私服が壊滅的にダサい公平が選ぶ服は当然ながら独特なセンスを放っていて陽介と二人で思わず首を横に振った。あまりの即答ぶりに公平が不貞腐れたような顔をする。

「随分静かだなと思ったら」
「相変わらず弾バカちゃんのセンスは独特でちゅね〜」
「ははっ、米屋殺す」
「冗談だっつの。まあお前のセンスは理解出来ねぇけど」
「なんでだよ。いいだろ、これ」
「……いや、微妙」
「はあ?絶対いいって」

やたらと静かだった理由は一生懸命服を見てたからかと納得している私の隣で陽介が公平を揶揄いだす。ゲラゲラ笑いながら公平のセンスに口を出す陽介に公平がそんなことないと反抗する。今回ばかりは公平に味方できないなあなんて思いながらミルクティーをすする。

「公平さ、今度一緒に服買いに行こう?」
「?おう」
「陽介も着いてきてね。流石に私1人は無理」
「おー、任せとけ」
「ついでに透と孝二も連れていこう。あいつらは公式イケメンだから私服もオシャレなのよ」
「公式って……」
「そういう話はやめろ」

この様子じゃ持っている洋服も微妙なものばかりなのだろうと踏んで公平に声をかける。勿論憐みの視線を向けることも忘れずに。なぜ自分がそんな目で見られているのかが分からないと言った様子の公平を横目に陽介も誘えば軽い返事が来る。

「シャラップ。とにかくあの2人も連れていく。あと、ぼっちになっちゃうから秀次も連れていこう!」
「お前ほんっと秀次好きだな」
「そりゃあもう、保護下に置きたい」
「三輪贔屓がすごい」
「ついでに言うと透と孝二も好き。あの2人と歩くとすれ違う女子がみんな羨ましそうな顔するからものっっっ凄い優越感が味わえる」
「性格悪ぃな、おい」
「んふふ、もっと褒めてくれてもいいよ」
「褒めてねえよ」

最近一緒に遊んでない三人も連れて行こうとする私に公平と陽介が呆れたような声を上げる。後輩は可愛いけれど同年代には可愛いなんて思ったことがないけれど秀次だけは別格に贔屓していることをほとんどの人が知っている。加えて私の性格がすこぶる悪い事もほとんどの人が知っている。特に透と孝二はどちらかというと私よりの性格なので気が合うのだ。その後、全員が休みの日に駅前のショッピングモールまで皆で買い物に行ってひと悶着あったのはまた別のお話。

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