ギロリと鋭い目で私を睨みつけた少年に思わず声を上げて笑ってしまった。
笑う私を益々鋭い目で睨みつける少年の前にしゃがみ込んでにこりと笑えば彼は警戒するように怪訝な顔をした。
「エースくんでしょ?」
「…何だよ」
「ほっぺ、血出てるよ」
「こんなん怪我でも何でもねぇよ」
「でもバイ菌入ったら大変だよ?絆創膏貼ってあげる」
「いらねぇよ。触んな」
絆創膏を片手に彼の頬に触れようとするとパシリとその手が払われる。あら、と声を上げてくすくす笑えば彼は何で私が笑ってるのか分からないと言わんばかりの顔をする。
一頻り笑ってから立ち上がり、ひらりと手を振って彼から離れれば様子を見ていたマルコが楽しそうに笑う。
「なあに?」
「随分構いたがりだねい」
「そりゃあ、可愛い弟だもの。構いたくもなるじゃない」
「そうかよい」
程々にねい、と私の頭を一撫でして去っていったマルコを見送って離れた場所から彼の様子を伺う。
小さく膝を抱えて丸くなる彼は何だか寂しそうで、放っておくのは何となく気が引けてしまった。
暫くして日が落ちれば辺りはひやりと冷たい風が吹き始める。いくら炎人間だとは言っても寒さを感じない訳では無い。毛布を片手に彼に近づけばギロリと、また鋭い目が私を見つめる。
「今度はなんだよ」
「ここ、寒いでしょ?」
「別に。寒くねぇよ」
「そう?でもこれ持ってきちゃったよ」
「知らねぇよ」
「貰ってくれないの?」
「いらねぇ」
ポンポンと続く会話に自然と笑みが零れてしまう。
楽しそうな私に、やっぱり怪訝な顔をした彼は口を閉じてじっと私を見つめてくる。首を傾げて彼を見つめ返すけれど、彼はずっと私を見たままだ。
そんな彼を横目に毛布を広げて彼の隣に座れば、彼はギョッとしたように目を見開いた。ふわりと彼に毛布をかけて、半分を自分の膝にかける。
「聞きたいこと、あるんじゃないの?」
「…なんで、そう思うんだよ」
「勘」
「ンだよ、それ」
私を見つめる彼に目を合わせてニコリと笑えば、彼は何度か口を開いたり閉じたりしてから結局口を噤んだ。
けれどやっぱり私に聞きたいことはあったようで恐る恐る、といった様子で彼が口を開く。
「なんで、俺に構うんだよ」
「仲良くなりたいからに決まってるじゃない」
「…なんで、仲良くなりてぇんだよ」
「そりゃあ、弟とは仲良くしたいじゃない?」
「馬鹿じゃねぇの」
「あははっ。そうね、馬鹿かも」
私の言葉を聞いてまた膝を抱えて小さくなってしまった彼の頭をぽんぽんと撫でる。振り払われないということは、少しは受け入れてくれたのだろうか。
ふわふわで指の間をさらさらと通る綺麗な黒髪を撫で付けるようにして優しく触れる。触んな、なんて小さな声が聞こえたけれど本気で嫌がってるならとっくにこの手は振り払われてるはずだ。
「お父さんはね、誰でも彼でも家族にするわけじゃないのよ。家族になりたい、家族にしたいって、思った人を船に乗せるの」
「…だから何だよ」
「エースのことね、もうみんな可愛い弟だって思ってるよ」
「…何だよ、それ。お前ら全員馬鹿だろ」
少しだけ上げられた顔を覗き込めば、彼の瞳が少しだけ揺れていて。あぁ、きっと不安なんだなって。そう思ったら、伝えなきゃダメだって思ってしまった。
彼の頬を優しく撫でて、それからもう一度頭を撫でる。みんな、貴方が大好きなんだよって。そう思ってるのが、ちょっとでも伝わったらいいなって。
優しく微笑めば彼が拗ねたような顔をして、また膝を抱えた。
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