コドモじゃできない

「ぎゅってして」

そう言って手を広げた私に彼は怪訝な顔をした。

無言で手を広げ続ければ小さくため息をついた彼が私の手を引いて抱きしめてくれる。あやすように背中をポンポンと撫でられて少しずつモヤモヤしていた気持ちが落ち着いてくる。

何があった訳でもない。少しずつ積もったイライラやモヤモヤがぱらぱらと零れ落ちて、一気に流れ出てしまっただけ。ぎゅうっと彼にしがみつけば、それに答えるようにかれの手が頭を撫でる。

彼の匂いを肺いっぱいに吸い込んで大きく息を吐く。

「ん、ありがと」
「なんだ、もういいのか?」

するりと腕から抜けてお礼を言えば、ふっと鼻で笑った彼が意地悪な顔をする。

私のことなんてお見通しと言わんばかりの口ぶりに少しだけムカついて、でも分かってくれてることが嬉しくて。

ゆるりと上がりそうになった口角を隠すように彼に抱きつけば、クツクツと喉を鳴らして彼が笑う。子供をあやすような態度にほんの少し反抗したくて、彼の首筋をがぶりと噛む。

「いてェ」
「うそつき」
「随分不機嫌だな。何が不満なんだ?」
「ローが私のこと、子供扱いする」

少しだけ体を離して私の顔を覗き込んだ彼の顔が至極楽しそうで、ぶすりと頬を膨らませる。

普段は冷たいのに私が甘やかして欲しいと思った時だけは、めちゃめちゃに甘やかしてくれる彼はずるい。嫌じゃないけど、嫌。好きだけど、好きじゃない。

そんな素直じゃない私の心に嫌気がさす。ぶすくれる私の頬を指先でつついた彼が喉を鳴らして笑う。

「俺はお子様を相手にしてるつもりはねェよ」
「…ほんとに?」
「あァ。子供相手に出来ねェようなこと、いつもしてんだろ」
「うっ…そ、そういうのは…いわないで、ほしい…」

私の背中を指先でつつつ、となぞってニヤリと笑った彼の顔に数日前の夜を思い浮かべてしまう。

ぶわりと顔が赤くなって、俯いて顔を隠した私に彼がまた笑う。

「で?次は何して欲しいんだ」
「ぅえ?」
「甘やかして欲しいんだろ?」
「…もういっかい、ぎゅってして」

俯いた私の顎を掬って無理やり目を合わせてきた彼が悪戯そうな顔で笑うから、小さな声で呟けばするりと背中に腕が回って抱きしめられる。

ぎゅうぎゅうと彼に抱きつけば、またあやすように背中をポンポンと撫でられる。

「あと、ちゅうもして」
「ん、」

彼にしがみついたまま、ぽつりとそう言えば軽く返事をした彼が首筋にキスを落とす。

体を離して今度は額。瞼、鼻、と何度も繰り返される触れるだけのキスは肝心な唇には触れてくれなくて。

「くちにも、して?」
「欲張りな奴だな」
「欲張りな私はいや?」
「嫌いじゃねェ」

縋るように首に腕を回せば、私の顔を見て彼が鼻で笑う。

嫌いなんて絶対に言わないことも、彼の嫌いじゃないってセリフが好きと同じ意味だってことも、全部知ってるのに、それでも聞いてしまう私に彼は満足そうに笑って唇に噛み付いた。

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