今この瞬間だけ、泣かせて

※悲恋※

戦えない私はマリンフォードに行けなくて別の島で海軍が映像電伝虫を介して流していた映像を見て崩れ落ちた。何が起きたのか、何が起きているのかも分からなくて呆然としちゃって、周りでナースさん達が声をかけてくれるんだけどその声も、何一つ耳に入らなくて。ずっと映像だけをぼんやり見つめ続けてた。

漸く皆が島に着いて船に乗るんだけどいつも名前を呼んでくれる彼の姿がどこにもなくて、クルーの一人に震える声で聞いたの。

「えー、す、は?」

って。返事に戸惑うクルーの横からマルコが「こっち来いよい」って呼ぶから、そっと後ろを着いていけば医務室の奥のベッドにだけカーテンがかかってて。

「そこに、エースがいる。だが、見るか見ないかはお前に任せるよい」

そう言って部屋を出ていく。ゆっくりとカーテンを開けるとベッドにはエースが寝ていて。「えーす、」って呼びかけても返事はしてくれないし、ぴくりとも動かない。
「ねえ、えーす」って何度も名前を呼んでそっと近付いてその手に触れる。メラメラの実の力もあってか、人よりも暖かかった手は驚く程に冷たくて、ぞわりと背中を冷たい何かが這う。

「えーす?ねえ、おきて、よ」

理解したくなくて、認めたくなくて、ずっと嘘だと、船に戻ったらいつもみたいにぎゅって抱きしめてくれると、そう思っていたのに。冷たくなった手と、開かない瞼。

その瞳が自分を映すことはもうないし、その手が自分を抱きしめてくれることももうない。そう分かった瞬間にボタボタと涙が零れた。

「や、やだぁ…!えー、すっ!えーすっ!なんで…っ!ずっと、一緒にいるって…っ、いった、のに!なんで…!なんでよ…っ!」

ベッドの横でエースの手を握りしめたまま座り込んで嗚咽を漏らした。

そのあと、お墓が作られて本当にエースは死んだんだって改めて思わされた。そっとお墓に近付いて、墓石に触れる。

「ねえ、エース。もう、手も繋げないね。もう、ぎゅって、できないね。もう…っ、一緒に、いれないんだね…っ」

一つ一つ確かめるように呟いて、墓石に額を押し付ける。泣いても泣いても涙は枯れなくて、またお墓の前でボロボロ涙を流す。

ふわりと風が頬を撫でて、一瞬強い風が吹いたと思ったらお墓にあったエースの帽子が風に舞って、ふわりと自分の頭の上に落ちてくる。エースがいつも落ち込んだ時は帽子を被せてその上から頭を撫でて慰めてくれたことを思い出してまた、涙が零れる。

「っ、ごめんね…っ!泣いてばっかりで、ごめんねっ…!ちゃんと、泣き止むから…!もう、エースに心配かけないから…!だから、だから今だけ、泣かせて…っ!」

帽子で顔を隠すようにして声を上げて泣いた。泣いて、泣いて、泣いて。ひとしきり泣いて、真っ赤に腫れた目で真っ直ぐに墓石を見た。

「エース。私、幸せだったよ。貴方に会えて、一緒にいれて。私が、いつまでも泣いてたら、エースそっちに行けないでしょ?だから、もう泣かない。私がそっちに行った時、全部エースにぶつけて、思いっきり泣いてやるんだから。その時は、いっぱい慰めて?それまで、ちょっとの間、お別れだね。…ねえ、エース。大好きよ。ずっと、ずっと。あいしてる」

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