サンジくんが背後から私を抱きしめて、背中に自分の額をぐりぐりと押し付けてくる時は甘えたい時の合図だ。
いつも私を目一杯甘やかしてくれるサンジくんは雨の日になるといつもこうして私を抱きしめる。彼の中で雨の日にはあまりいい思い出がないのかもしれないけれど、それを検索することはしない。
たまには私がサンジくんを目一杯甘やかす日があったっていいと思うのだ。
「ね、サンジくん。後ろからじゃなくて正面からぎゅってしようよ」
「ん…」
お腹に回っていた手をぽんぽんと叩いて声をかければ、その手が少しだけ緩められる。
彼の腕の中でくるりと体の向きを変えて真正面から彼に抱きつけば、ぎゅううっとさっきよりも強く抱きしめられる。私の肩口に額を押し付けたままのサンジくんがいつもよりも小さく感じられて、胸がぎゅっと苦しくなる。
どうしたらいいかな。どうしたら私は彼の力になれる?何をしてあげたらいい?ぐるぐると頭の中を色んな考えが巡るけれど、今のサンジくんには何を言っても気休めにしかならない気がして口を噤む。
けれど、私が落ち込んでいる時に彼がいつも伝えてくれる言葉を思い出してハッとする。
そうだよ、そうだ。私が、ここにちゃんといることを伝えてあげればいいじゃないか。私が思っていたよりもずっとシンプルで簡単な答えに頬が緩んで、気付けば優しい声で彼の名前を呼んでいた。
「サンジくん」
「ん?」
「好きだよ。大好き。サンジくんに出会えて、こうやってぎゅうってできて、ほんとに幸せなの。だからね、これからもいっぱいぎゅってしよ?私と出会ってくれてありがとう」
「…っ、うん。俺も、すきだよ。大好きだ…」
いつもより元気の無い背中を優しく撫でてゆっくり、ゆっくり、言葉を紡ぐ。
少しでも伝わって欲しい。少しでも彼の心が安らげばいい。少しでも彼が安心してくれればいい。私が、ちゃんと貴方を大好きだって。分かって欲しい。
少しずつ彼の腕の力が強くなって、肩口がじんわりと濡れてくる。微かに震えた彼の肩には気付かないフリをしてただ静かに抱きしめ続けた。
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