挨拶代わりの銃弾を

※暴力表現有※

完全に気を抜いていた。拘束されるまで背後の気配に気付かないなんて白ひげのクルー失格だ。

後ろ手に縛られて、汚い小屋の床に転がされた時に擦れた頬がぴりぴりと痛む。口にはテープが貼られて声が出せないし、ご丁寧に足まで拘束されている。

小娘一人拘束するのにここまでやる位ビビってるならやらなきゃいいのに、と思いながら吐き出したくなるため息を飲み込む。

私が懐にしまっていた子電伝虫を使って船へと連絡した男達の声が震えていて、ますます呆れてしまう。だから、そんなに白ひげが怖いなら止めればいいのに。

目を細めて男達を見つめると、その視線が気に食わなかったのか男達の顔がぶわりと憤怒で赤くなる。

「なんだよ…っ!その目はァ!」
「んっ…ぐ…っ」
「人質だからって…っ、無事でいられると思ってんじゃねェよ!」

感情のままに声を荒らげた男が床に転がっていた私の腹部を蹴り飛ばす。痛みで額に汗が滲んで、目に涙が滲む。せり上がってくる空気は吐き出すことが出来ずに喉の奥で音を鳴らした。

蹴られた腹部を守るように体を丸めるけれど横腹を何度も踏みつけられてズキズキと痛みが増していく。つう、と顬から流れた汗が涙と混ざってぽたりと落ちる。

皆に連絡がいっているのなら間違いなく、すぐに助けが来る。それまで我慢すればいいだけだ。

「チッ…!この状況でよくそんな余裕そうな目ができるなァ!ムカつくんだよ!白ひげのジジィも!テメェらクルーもよォ!」

周りの男達がやりすぎだと止める声に耳を傾けることなく私を睨みつける男に冷や汗が流れる。

床に転がる私の上に馬乗りになった男がニヤリと笑って手を伸ばす。首に回った手がぎりぎりと喉を締め上げて、息ができなくなる。体を捩らせて拘束から逃げようとするけれど、できなくて。

意識が飛びそうになった、その瞬間だった。

けたたましい音をたてて壊れた扉から破裂音が何度かして、男達の悲鳴が聞こえてくる。私の上に馬乗りになっていた男は私の隣で倒れていて、あまりにも一瞬の出来事すぎて状況が把握出来ない。

ゆっくり瞬きを繰り返しているとふわりと優しく抱き起こされて、鼻をくすぐるいつもの煙管の匂い。口元のテープを剥がされて、頬を優しく何度か叩かれる。

「い、ぞー、…?」
「悪かった。助けにくるのが遅くなったなァ」
「けほっ、だいじょーぶ…げほっげほっ」

酸素の回らない頭は上手く働いてくれなくて、ぼんやりした意識の中で言葉を紡ぐ。けれど、圧迫された喉は上手く声を出すことを許してくれない。

咳き込みながら必死に言葉を紡ごうとする私の頭を抱え込むようにして抱きしめた彼に背中を優しく撫でられる。手足の拘束を外されて、ふわりと片手で抱き上げられる。

「さて…さっきの弾は、挨拶代わりだ。俺の大事なモンに手出しておいてタダで帰れるとは、思ってないよなァ?」

くたりと彼の肩に頭を預けて、うっすらと開けた目に映ったのは座り込んでガタガタ震える男達とそんな男達の前に立つ兄達の背中。

私を抱き上げる手にほんの一瞬力が込められて、破裂音が数回聞こえる。緊張の糸がぷつりと切れたせいか、意識が徐々に睡魔に飲み込まれてとぷりと沈んでいった。

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