その笑顔が眩しかった

※トリップネタ※
※『何も知らない』の続き※

トナカイくんの制止を振り切ってベッドから起き上がった私を、呆れた顔のナミが船の甲板へと案内してくれる。海賊とは言っていたけれどまさか本当に海のど真ん中にいるとは思わなかった。

ぽかんと間抜けな顔をして海を眺める私の目の前にひょっこり顔を出したのはさっきの麦わら帽子の少年。大きな瞳にじっと見つめられて、思わずじっと見つめ返してしまう。

「オメー、違う世界の人間なんだろ?」
「えっ…あ、うん…?多分…」
「すっげぇな!どうやってこっち来たんだ!?」
「ええ?あー…その、ごめん…それが、わかんなくて…」
「なんだ知らねぇのか。ならしょーがねぇな」

唐突に声をかけられて驚きながらも返事をすれば、彼はキラキラと目を輝かせる。かと思えば私の答えにうんうん、と一人納得するような顔をして見せたりとコロコロと表情を変える少年に戸惑いが隠せない。

あれ、なんでこんなに受け入れ早いんだろう。

戸惑いながらも視線を動かせば、こちらの様子を伺う幾つかの目。ナミに自分の状況は話したものの、これからどうするつもりなんだろう。

キョロキョロと視線を動かしてナミを探せば船室から出てきたナミと目が合って、ホッと肩の力が抜ける。私の様子を見たナミは肩を竦めて小さく笑う。

「ところでよぉ、これからオメーどうすんだ?」
「どうするって…」
「元の世界に戻れんならそれでいーかも知れねぇけど、記憶ソーシツってやつなんだろ?どうやって戻んだ?」
「あー…そう、だね」

彼の質問に思わず動きが止まってしまった。それ程までに、少年が私にかけた言葉は重かったのだ。

元の世界に戻れたとしても、私の居場所はもうどこにも無い。初めから無いに等しかった居場所を、私もう捨ててしまったから。それに、戻り方なんて知ってる訳がないんだ。

どうしてここにいるのかも分からない。どうやって来たのかも分からない。折角独りぼっちから開放されたと思ったのに、また独りぼっちになってしまう。

神様は、意地悪だ。

「わたし、なんのためにしんだんだろ」

ぽつりと口から零れた言葉は船の中を静かにさせるには十分だった。

私の隣にいた麦わら帽子の少年も、混乱している私の代わりに説明をしてくれていたナミも、彼女の話を静かに聞いていた他の人達も、全員が驚いたような顔でこっちを見ていた。ハッとして口を手で押さえて視線を泳がせる。

何度、独りぼっちを経験すればいいんだ。そう思ったら口から零れてしまっていた言葉はもう取り消せない。私の方へと歩いてきたナミが目を吊り上げて、私の頬を抓った。

「い、いはい…」
「死んだってどういうこと!?」

説明しなさい、と真剣な目をするナミに観念してぽつりぽつりと話をした。

両親に幼い頃に捨てられたこと。

引き取られた家の人から疎まれていたこと。

友人にも恵まれなかったこと。

いつも、独りだったこと。

これ以上、惨めな人間になりたくなかった。

だから、生きていくことを諦めて冬の海に身を投げたこと。

「あ、はは…ほんと、運悪いよね、私。折角死ねたと思ったら、また独りぼっちで知らない世界だなんて、笑っちゃう。ほんと、ごめんね、変な話聞かせちゃって」

沈黙が、耐えられなかった。

両親に捨てられて、引き取られた先でも疎まれて、そんな私を同情の目で見て近付いてきたくせに、最後には面倒になって突き放す友人。同じ思いは、もうしたくなかった。

こんな話をしたって、私を気にかけてくれるのなんか最初だけ。空気を変えようと必死に笑顔を作って、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。口を閉ざしたら、涙が零れてしまいそうだったから。

涙を堪えてあはは、と笑う私をじっと見つめていた麦わら帽子の少年が首を傾げて口を開いた。

「独りじゃねぇだろ」
「え?」
「それに運も悪くねぇよ」

何を言っているのか、何を言いたいのか。全く分からなくて戸惑う私に彼は太陽のように笑って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「独りぼっちになりたくなくて死んだんだろ?で、俺達に会ってんだからいいじゃねぇか」
「な、なにいって…」
「良かったなー、お前。俺達に拾われてなかったら、今頃もう一回死んでたぞ」

ケラケラと笑って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる彼に言葉を返せずにされるがままになっていれば、物凄い勢いでナミの拳が彼の頭に直撃した。ゴシャッ、と凄い音を立てて甲板に沈んだ彼を踏みつけてナミが怒鳴る。

「アンタねぇ!?言い方ってもんがあるでしょ!?」
「何すんだナミ!」
「こっちのセリフよ!」

ギャアギャアと目の前で言い合いをする二人を見て、思わず笑ってしまった。

なんで、私の為にこんなに怒ってくれるんだろう。なんで、同情しないんだろう。なんで、全部丸ごと受け入れてくれるんだろう。

「さっきもそうだったけどよ、お前やっぱり笑ってる方がカワイーぞ!いつもそーやって笑ってろよ」

ニッと笑って私の頭をもう一度ぐしゃぐしゃと撫でた彼の眩しい笑顔にぽろりと涙が零れた。

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