※トリップネタ※
※『俺達がいる』の続き※
いくら安心したとはいえ、初対面の人達の前で泣き喚いたと思うと途端に羞恥心に襲われる。
真っ赤になった目と頬、涙やら鼻水やらで濡れた顔。最悪だ。ぶわりと顔が赤くなって、違う意味で涙が零れそうだ。
ようやく泣き止んだと思えば、また泣き出しそうな私を見てナミが何度目かのため息をつく。
「何でまた泣きそうなのよ」
「だ、だってぇ…」
「ほら、顔洗いに行くわよ」
「はあい…」
先程までの優しい手付きとは裏腹に乱暴に私の目元を拭ったナミが私の手を引いて立ち上がる。
連れていかれた洗面所で顔を洗って鏡を見る。なんて酷い顔なんだ。けれど今まで生きてきて、こんなに泣いたことなんてなかった。
泣くことがこんなにもスッキリするのかと内心驚きながらぼんやりと鏡の自分を見つめていれば後ろから頭を叩かれる。
「いたい…」
「お風呂、入ってきなさい。服貸してあげるから」
「いいの…?」
「何ならその服あげるわよ。どうせもう着ないし」
「えっ!?」
私に布の塊を押し付けて、もう一つの扉を指差したナミを恐る恐る見ればニッと笑って私の背中を押す。さっさと入ってきなさい、とお風呂場に押し込まれて渋々服を脱ぐ。
扉の向こうから「タオル置いとくわよー」と声をかけられて慌てて返事をすれば声が裏返る。クスクスと笑うナミの声が聞こえて、また羞恥で顔が赤くなったのが分かった。
頭から被った暖かいお湯はじわじわと体に染み込んでくる。ほう、と口から吐息が零れて肩の力が抜ける。手早く髪の毛や体を洗ってそっと扉を開ければ、ナミがくれた服の隣に白いタオルが置かれていた。
体を拭いて洋服に袖を通せば、ふわりとナミの匂いが鼻をくすぐる。少し乱暴に頭を拭いて水気を飛ばし、鏡を見ながら手櫛で梳かす。
「終わった?」
「っ、うん!」
「お腹減ったでしょ?ご飯にしましょ」
「い、いいの…?」
ひょっこりと扉の向こうから顔を出したナミにびくりと肩を揺らしながら返事をすれば、彼女はまたクスクスと笑って私の手を引いた。
その後ろ姿に恐る恐る声をかければ足を止めたナミがくるりと振り返って、私の額をぱちりと弾く。反射的に額を手で押さえればナミは腰に手を当てて口を開いた。
「この船に乗ってる以上は遠慮しないの!わかった?」
「う…わかった…」
こくりと頷いた私を見て満足そうに笑ったナミはまた私の手を引いて歩き出す。
連れてこられた船室ではスーツの男の人がキッチンで料理をしていて、椅子に座った麦わら帽子の少年と鼻の長い少年、それからトナカイくんが「めーし!めーし!」と楽しそうに歌っていた。
その隣では黒髪のお姉さんが読書をしていて、少し離れた場所では緑色の髪の人が座って目を閉じていた。やって来た私達を見てスーツの男の人がパァっと表情を明るくして駆け寄ってくる。
「ナミすわあああん!もうすぐご飯できるからねえええ!」
「はいはい。ありがと、サンジくん」
「それから…先程はご挨拶出来ずにすみません、レディ。俺の名前はサンジ、以後お見知りおきを」
「う、あ…は、はい…」
目をハートにしてクルクルと回りながらナミに話しかけた男の人が、キリッと表情を変えて私の前に跪く。
突然の事に驚いていれば、そっと左手を取られて恭しく口付けられる。恥ずかしさに顔を赤くして何とか返事を返せば、彼はそんな私を見てクスクスと笑う。その顔があまりにも綺麗で、ますますどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
そんな私の手を優しく引いて椅子に座らせてくれた彼に小さな声でお礼を告げてキョロキョロと室内を見ていれば、目の前に座っていた黒髪の女の人と目が合う。
「思っていたよりも元気そうね。体調はどう?」
「あ、えと…大丈夫、です」
「ふふ、そんなに畏まらなくてもいいのに」
ふんわりと笑った彼女はロビンと名乗って、よろしくねとナミと同じように手を差し出してくれた。その手を握ってふにゃりと笑った私を見て隣に座っていた麦わら帽子の少年がニシシッと笑う。不思議に思ってそちらを見れば、彼は楽しそうに笑っていた。
「やっぱ笑ってる方がいーな、お前」
「そう、かな?」
「ああ!間違いねえ!な!そう思うだろ?ウソップ!」
「あ?あー、まあそうだな。さっきの涙でぐしゃぐしゃの顔よりはマシだろ!」
「はっはっはっ!違いねえ!」
麦わら帽子の少年にちょっとかっこいいかも、なんて思ったのも束の間。すぐに鼻の長い少年とゲラゲラ笑い始めて何だか失礼だ、と唇を尖らせる。
確かに、酷い顔だったけどそんなに言わなくたっていいじゃない。心の中でそう思っていれば、私を見て鼻の長い少年がケラケラと笑った。
「そうやって嫌な事は嫌って顔に出してるくらいが丁度いいと思うぜ。変に作り笑いしてるよりずっとな」
「…うん。あり、がとう」
自分の顔を指差しながら私を見てニッと笑った彼はウソップと名乗って自分がこの船の船長だと言い始めた。すると途端に、隣にいた麦わら帽子の少年が俺が船長だと騒ぎ始める。
麦わら帽子の少年はルフィと名乗り、ウソップではなく自分が船長だと力説し始めた。ちょっとでも視線を逸らそうものならちゃんと聞けー!と怒られてしまう。
けれど、そんなやり取りすらも何だか楽しくてクスクス笑ってしまう。気付けば二人で楽しく話し始めてしまったルフィとウソップを見つめていれば、ルフィとは反対の隣に座っていたトナカイくんに袖を引かれる。
「俺は、トニートニー・チョッパー!この船の船医だ!よろしくな!なんかあったらすぐに俺に言うんだぞ!」
「うん、分かった。よろしくね、ドクターチョッパー」
「エッエッエッ。ドクターだなんて、嬉しくねぇよ!バカ!」
ころころと変わる表情とその愛らしい姿に思わず手が伸びてしまった。ぽんぽんとその頭を撫でれば、彼は悪態をつきながらも嬉しそうに笑う。
ふふ、と笑っていればどこからか視線を感じてバッと振り返る。ぱちりと目が合ったのは先程から一度も私に興味を示していない緑色の髪の男の子。その目は鋭く、私を品定めしているようでゾクリとした。
けれどここで目を逸らしたら負けな気がして、じっと見つめ返す。暫くしてふっと目を逸らした彼に口からは安堵の溜息が零れた。
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