※トリップネタ※
※『まずは、ご挨拶を』の続き※
ほっぺたが落ちるほどに美味しい料理にびっくりして、皆に笑われてしまったのは数時間前の話。
あんなに美味しいご飯、一度でも食べてしまったらもう普通のご飯は食べられないんじゃないかとちょっぴり怖くなる気持ちを振り払うように頭を振って海を見つめる。
潮風が少し火照った体を冷やしてくれて、気持ちがいい。目を閉じて風を受けて、海の音に耳を傾ける。ぱしゃり、ぱしゃりと船に当たっては引いていく波の音に自然と心が落ち着いていく。
「いつまでこの船に乗ってるつもりだ?」
「っ、え…?」
そんな私を暗い所に突き落とすように話しかけてきたのは緑色の髪の男の子。ハッとして視線を移せば鋭い視線が私を見つめていて、思わずひゅっと喉の奥が鳴った。
「いつまで、って…」
「この船は商船でも客船でもねぇ、海賊船だぞ。テメェみたいに戦える訳でもなければ何か特別な力を持ってる訳でもねぇ一般人のテメェをいつまでも乗せてやる義理はねぇ」
私を見て淡々と話す彼の言い分は最もだ。
海賊船、ということは常に危険と隣り合わせなのだ。戦えもしない私が一緒にいたら確実に足でまといになってしまう。何一つ、言い返す事なんてできなくて口を噤む。
「他の奴らは何も言わねぇだろうが、俺は違う。何の意思も、信念も持たない奴が、ヘラヘラ笑って流されて船に乗り続けるなんざ、俺は許さねェ」
「そ、れは…」
「海賊ってのは、生半可な気持ちでなれるもんじゃねェ。死ぬ覚悟も、この世界で生きてく覚悟も、何一つ出来てねぇお前が海賊になれるとは思えねぇしな」
ズキズキと痛む胸は、彼の言っている事が正しいと分かっているから。
確かに、私がこの船に乗せて欲しいと頼み込んだわけじゃない。彼らがずっとこの船に乗っていてもいいと言ったわけでもない。友達と言ってくれたことは本当でも、それがずっと一緒にいることとイコールではない。
ぐぅっと胸の奥が苦しくなって涙が零れそうになるけれど、ここで泣いてしまうのは狡いと思った。何でも泣いて許されようとする女だとは思われたくない。
「た、しかに、海賊って言われてもあんまり、ピンとこないし…死ぬとか、生きるとかも、分かんない。それに、一度、生きるのを諦めた私が、そんなこと言っても、嘘にしか聞こえない…と思う」
小さく息を吸って、話し始める。声が震えて、上手く話せているのかは分からないけれど、一つ一つ言葉を紡いでいく。
「いまの、私にとって、みんなは…っ、太陽、みたいで、眩しくて…。でも、ルフィ、っも、ナミも、私と友達になってくれるって、言ってくれたから…っ。だから、皆の隣に、胸を張って、立てるようになり、たい…とは、思ってるの」
思っているのと、口に出すのじゃ全然違う。
口に出すと、それは重みを増して私にのしかかってくる。
先程よりも声は震えているし、きっと目元は真っ赤になっている。それでも、目だけは逸らさなかった。
真っ直ぐに彼の目を見て、大きく息を吸って吐く。
「前の世界には、帰らない…!わたしは、ここで…っ、自分の、居場所を見つける為に、頑張りたいっ…!」
勢いに任せて吐き出したその言葉に、彼は小さくため息をついて「そうかよ」とだけ返した。
そのまま、立っていた私の隣に腰を下ろして目を閉じてしまった彼にどうしたらいいのか分からずに戸惑ってしまう。
「あの、えっと、」
「……ゾロだ」
「へっ…?」
「俺の名前」
「へっ、あっ、よろしくお願いします…?」
ここを立ち去るのが正解なのか、沈黙が正解なのか、話しかけるのが正解なのか。迷った挙句、話しかけようとした私を薄目を開けてチラリと見た彼がポツリと名前を教えてくれる。
どうして、名前を教えてくれたのか。どうして、ここで寝るのか。理由は分からないけれど、その目が今までよりもずっと優しいことに気がついてふっと体から力が抜ける。ヘナヘナと座り込んだ私に彼は驚いたようにギョッとした。
「何も泣くことねぇだろ」
「ない、てる…ね、あはは…」
「ほんとにそんなんで海賊出来んのかよ」
「が、がんばる…!」
ちょっぴり乱暴に指先で拭われた涙を見て、初めて自分が涙を流していることに気付く。少し驚きながらも笑って見せれば、彼は困ったような顔をするから両手を握りしめて胸の前に掲げる。
意気込んでみても、つい最近まで一般人だった私に出来ることなんて限られている。そんな事を思いながらゾロの隣に座っていれば、どこからか私を呼ぶ声が聞こえてくる。
視線を移したゾロが表情を歪ませたのと同時に、少し離れた場所から文字通りルフィが飛んできた。
「げっ、」
「へ?…っ、うわあああ!?」
「いたいた!どーこ行ったかと思った!」
「テッメェ!毎度毎度マシな呼び方ねぇのか!」
思い切り突っ込んできたルフィに思わず目を瞑れば、何かがぶつかるような大きな音がした。恐る恐る目を開ければこちらを見てキラキラと笑うルフィと、そんなルフィに下敷きにされているゾロの姿。
大丈夫か、と声をかけるよりも早くゾロが立ち上がってルフィの頭を思い切り叩いた。こちらもまたとんでもなく痛そうな音がして、またぎゅっと目を閉じてしまう。けれど、私を探していたらしいルフィはすぐに私を見て口を開いた。
「なぁ!お前…」
「っ、まって!」
「んぐっ、んんん!んーーー!」
何となく、彼が何を言いたいのか分かってしまって咄嗟に口を手で塞ぐ。
突然のことに何をするんだと言わんばかりの顔でこちらを見るルフィだけど、こればかりはダメだ。彼の、彼らの隣に、胸を張って立ちたいから。だから、ちゃんと私が言わなきゃいけないんだ。
私をキョトンとした顔で見つめるルフィに大きく息を吸って吐く。ドキドキと心臓が大きく脈打って、息が苦しくなる。 指先が震えて、口からは声にならない吐息だけが零れる。
「あっ、のね…!足でまといに、ならないように、頑張るから…!皆の隣に、立ちたくてっ、それで…っ、わたし、ここで、私の居場所をっ…みつけたいから…っ、だから…!わたしを、なかまに、して…くれます、か…?」
目は決して逸らさない。真っ直ぐにルフィの目を見て、言葉を紡ぐ。
何にも纏まっていない、めちゃくちゃな文章だったけれど、そんな私の言葉にルフィは太陽のような眩しい笑顔で笑って私の頭にぽすりと帽子を被せた。
「当たり前だ!お前を仲間にするって決めてたんだ!俺は!」
「〜っ、あり、っがと…っふぇ…っ、」
「ったく、お前はほんっと泣き虫だな〜!」
「なぎむじ、ぞづぎょう、ずるもん…っ、!」
ニシシッ、と笑ったルフィを見てぼろぼろと涙が溢れる。声を上げて泣きじゃくる私にルフィはからからと笑って、ゾロは呆れたように笑っていた。
もう、泣き虫も弱虫も卒業するんだ。ちゃんと、海賊として生きるんだ。この場所で、ちゃんと自分の居場所を見つけるから。
.