※ちょっと胸糞表現有※
人間とは単純な生き物だ。己と異なるものを敵とみなし排除しようとする。
魔女の存在が危険と判断され、世界的に魔女狩りが流行ったのは今から遥か昔の話。人間は今この世の中に魔女なんて存在しないと本気で思っていた。
更には悪魔の実と呼ばれる物が現れ、人間では考えられない能力を持つ人に対して人間たちの心は昔に比べて寛容になった。
だからこそ、一部の魔女達は浮かれてしまった。己の正体を語った魔女がいた事で、政府は魔女の存在を危険と判断した。
そして、遥か昔に終結したはずの魔女狩りの時代がまた始まったのだ。島から島へと移り住み、安寧の地を求めて旅をした。
「魔女だ!魔女がいたぞ!」
「追え!逃がすな!」
とある島で助けた女に売られ、海軍にその存在を知られてしまった私は海軍に追われていた。魔法は万能じゃない。使えば使うだけ魔力を消耗するから、徐々にその効果も威力も落ちていく。
不運にもその島に海軍の軍隊が上陸してしまったせいで、島中には海軍の兵士達が腐るほどいた。自分の姿を見えなくする魔法を使い路地に逃げ込む。
姿は見えなくなるが、気配や息遣い、音は消せない。息を殺して身を小さくする。路地の外が静かになり、近くに聞こえていた海軍の兵士達の声も徐々に遠くなる。小さく息を吐いて魔法を解けば、一気に疲れが押し寄せる。
このままここで日が沈むのを待とう。暗くなったら、闇に乗じてそのまま次の島に移ろう。そう思い、目を閉じようとしたその瞬間だった。
「大丈夫かい?」
「っ、…!誰…!」
突然かけられた声に反射的に立ち上がる。ぐらりと、一瞬だけ視界が歪むけれど何とか堪えて相手を見据える。
綺麗な金色の髪と真っ直ぐにこちらを見つめる瞳。その目からは敵意は一切感じられず、純粋な心配の色が見て取れた。
けれどこの状況で簡単に信用なんて出来るはずもなく、普段は使わない心を覗く魔法を使う。口や態度ではいくらでも自分を偽れる。それを知っているからこそ、簡単には信用出来なかった。
視覚から流れ込んできた彼の心の声は純粋な心配と気遣い、そしてほんの少しの下心。安心したのと同時に一気に視界が歪んで真っ暗になる。
傾いた体が暖かい何かに包まれて、必死に呼びかける彼の声に答えを返せずに意識がとぷりと闇に落ちた。
「大丈夫か?」
「…し、か?」
「俺はトナカイだ!…ってそうじゃねぇ!大丈夫か?どっか痛いとか、苦しいとかないか?」
次に目が覚めると、目の前に鹿がいた。ぼんやりする頭で口を開けば彼は一人でわたわたと慌て始めた。心配そうに首を傾げる彼に大丈夫だと返しながらゆっくり体を起こそうとすればまだ寝てなきゃダメだと彼が騒ぐ。
渋々体を元に戻せば彼は可愛らしい足音を立てて部屋の中を忙しなく歩き回る。熱を測られたり、心音を確認されたりと、まるで医者のような彼にされるがままになっているとコンコンとノックの音が部屋に響く。
扉の向こうから聞こえた声に目の前の彼が返事をして、カタリと扉が開く。顔を覗かせたのは、意識を失う前に見ていた彼で。
「あ、なた…」
「ああ…!よかった、目が覚めたんだね。調子はどうだい?」
驚いたように声を上げると、彼はパッと顔を輝かせてベッド脇に跪いて頬を弛めた。もう一度腕に力を込めて起き上がれば、二人揃ってまだ寝てなきゃダメだと怒り出す。平気だと返して上体を起こせば心配そうな目に見つめられて何だかそわそわした。
考えてみれば最初に魔女狩りが起きたあの日から、誰かに心配されるなんて久しく経験していなかった。嬉しいような、恥ずかしいような。そんな気持ちがまだ自分の中にもあったのかと驚きながら、ゆっくりと口を開く。
「貴方が、助けてくれたの?」
「俺はここまで君を運んできただけさ。君を助けたのはウチの船医だ。なあ、チョッパー?」
「でもサンジが運んできてくれなかったら危なかったんだぞ!熱も下がらないし、衰弱しきってて…何であんな状況になるまで立ってられたのか不思議なくらいだったんだからな!」
「…そう。ありがとう、助けてくれて」
「なっ…お、お礼なんか言われたって嬉しくねぇぞ!コノヤロー!」
思っていたよりもずっと魔力を消費していたようで、彼らがどんな人達であっても今こうして無事に魔力が回復しているのなら幸運だった。
彼らがこの部屋からいなくなって、ここ一帯が静かになったら逃げよう。そう思いながら当たり障りのない会話をしているとバタバタと外が騒がしくなる。
金色の髪の毛を揺らした彼がうるせぇなあと眉間にシワを寄せていると、部屋の扉がけたたましい音を立てて開いた。
「サンジ!チョッパー!魔女!魔女がいるらしいぞこの島!」
麦わら帽子を被った男の子。彼がそう叫びながら部屋に入ってくる。病人の前だから静かにしろと二人に怒られた彼はたんこぶの出来た頭を押さえながらこちらを見てピタリと動きを止めた。が、すぐにパッと笑顔になってこちらに歩み寄ってくる。
「お前起きたのか!よかったよかった!」
「え、えぇ…お陰様で。ありがとう」
「いーんだ!気にすんな!それよりお前、この島の人間なんだろ?魔女がどこにいるか知らねーか?」
グリグリと頭を撫でられて、ぐらりと頭が揺れる。戸惑いながらも返事をすれば腰に手を当てて豪快に彼が笑う。
そして思い出したように魔女の話を持ち出した。心臓がやけにうるさく鳴り出して、頭が痛い。この島に魔女がいるからなんだと言うのだ。捕まえて海軍に売りつけようとでも言うのだろうか。それとも自分達の利益の為に魔女を捕まえようとしているのだろうか。
「…ごめんなさい。私、この島の人間じゃないの」
「そうなのか?」
「ええ。それにしても…どうして魔女の居場所が知りたいの?」
「何でって、魔女ってことは魔法使いだろ?会ってみてぇじゃねえか!で、良い奴だったら仲間にするんだ!」
そう言いきった彼の目には一寸の曇りもない。
純粋で、真っ直ぐな、彼のような瞳を少し前に見たことがあった。この海賊時代の幕を上げた、あの男と同じ真っ直ぐな目。
肩に入っていた力がすっと抜けて、思わず笑みが零れる。声を上げて笑えば、彼は自分がバカにされたとでも思ったのか不機嫌そうな顔をする。
「なんだよ!何がおかしいんだよ!」
「おかしいんじゃなくて、嬉しいのよ。ウン十年ぶりにその目をする人に出会ったわ」
「ウン十年って、お前何歳なんだ!?」
「ふふ。もう500は超えてるわ」
「うおおお!?500を超えているなんて到底思えないその美しさ…!!俺は今、女神に会っている…!!」
「ってことはお前が魔女か!!!」
クスクス笑いながら話をすれば彼らのが徐々に驚きの色に変わっていく。トナカイの彼が驚きながらした質問に答えた瞬間、麦わら帽子の彼の瞳がキラキラと輝きだす。
真っ直ぐで、綺麗なその瞳に宿る純粋な心。魔法を見せろと騒ぐ彼に笑いながら日常で使うような些細な魔法を使って見せれば益々目を輝かせた。
「ねえ、貴方は私が魔女って聞いてどう思った?」
「?なんだそれ」
「怖いとか、気持ち悪いとか、思わなかった?」
「何で俺がお前を怖がらなきゃいけねえんだよ。魔法使えるなんてすげーだろ!」
「なあ!さっきのどうやったんだ?魔法ってどうやったら使えるんだ?俺にも使えるかな?」
「魔女だろうと何だろうと君の美しさの前では、全てひれ伏す……俺は今美しさという名の雷に打たれた木……!!」
自分でも意地悪な質問をしていると思った。それでも、質問せずにはいられなかったのだ。
期待通り彼らはあの男達と同じように、なんて事ないように笑って答えた。自分と違う力を持つ人間に対する純粋な賞賛。誰にでもできる事じゃない。
「ふふっ、あははっ!ねえ、貴方の名前、なんて言うの?」
「俺はモンキー・D・ルフィ!海賊王になる男だ!」
「海賊王…そう、貴方が…」
「お前、俺の仲間になれ!!」
海賊王になると言いきった彼にますます心が惹かれて頷けば、彼はまたパッと目を輝かせた。
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