時折、彼の瞳が不安げに揺れる時がある。
そんな時、決まって彼は「どうしたの?」と聞いた私に「なんでもないよ」と返すのだ。なんでもないはずなんてないのに。彼は、私に心配かけまいと笑ってみせるのだ。
不安なことも、悲しいことも、嬉しいことも楽しいことも。全部、全部彼と共有したいと思っているのは私だけなのか。
「ねえ、私ね、サンジくんのことは何でも知りたいの。辛い事とか悲しい事とか、嬉しい事、楽しい事。全部知りたいの」
真っ直ぐに、彼を見てそう伝える。彼の目がまた不安げに揺れて、情けなく眉が下がる。少しだけ震える彼の手を両手で握りしめて息を吸う。
「前に、サンジくんが私に言ってくれたこと、覚えてる?」
「君に?」
「うん。私にね、隠し事は無しだよって言ってくれたの。サンジくんを独り占めしたいって思う醜い心も疚しい心も全部、丸ごと私を愛してあげるって言ってくれたの」
それが、どれほど嬉しかったことか。
私はね、全部を丸ごと愛するって簡単に出来ることじゃなくて本当に大好きな人の為にしか出来ないことだと思うんだ。
貴方が私の事を本当に愛してくれてるって心の底からそう思えた。だから、私もそう思ってるんだよって貴方に伝えたいの。
「私はサンジくんが大大大好きだよ。嫌いになったりしないよ」
そう言うと、彼の口が少しだけ開いてまた閉じる。何度かそれを繰り返して、彼の口から小さな声が零れ落ちた。
「たまに、不安になるんだ。名前ちゃんが、俺を捨てるんじゃないかって。また、一人になるんじゃないかって。名前ちゃんには、俺よりも似合う人がいるんじゃないかって、思っちまうんだ」
痛いくらいに握りしめられた手が、少し震えてて。続きを促すように頷けば、彼は私の顔色を伺うようにちらりと私を見る。
「俺なんかで、本当にいいのかって…君を、幸せにできるのかって、不安になるんだ…」
力なくしゃがみ込んでしまった彼に倣って私もしゃがみ込む。まるで、小さな子供のように、手を握ったまま小さく蹲った彼の名前を呼ぶ。
出来るだけ、優しく。それでいて、静かに。そっと頭を撫でてあげれば、彼の顔がゆっくりと上がって、震える瞳が私を見る。
「サンジくん。私はね、サンジくん『で』いい訳じゃないの。サンジくん『が』いいの。サンジくんじゃなきゃダメなの。貴方だから、そんな風に私の為にいっぱい悩んで、考えてくれる貴方だから選んだの。私、貴方に会えて本当に幸せなの」
生まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。私の為に沢山悩んでくれてありがとう。私を好きになってくれてありがとう。
沢山のありがとうが、胸いっぱいに溢れて、ぽろぽろ溢れ出る。私がありがとうを伝える度に彼の目が真ん丸に見開かれて、そこからぽたぽたと大粒の涙が零れ落ちる。
「ねえ、サンジくん。好きだよ、大好き。愛してる」
「っ…っ、俺も、名前ちゃんが大好きだ…っ、愛してる…!」
ふわりと彼を抱き締めれば、背中に回った腕にぎゅっと抱きしめられる。いつもの様な私を気遣った優しいハグじゃなくて、感情に任せた力一杯のハグ。
耳元で聞こえる彼の嗚咽は、何故かとても愛しくて。
彼が泣いているはずなのに私は嬉しかったの。だって、私にかっこいい所を見せたがる貴方が、私のことを考えて涙を流しているから。
貴方が私の不安をいつだって取り除いてくれるように、私も貴方の不安を取り除いてあげたいの。かっこいい貴方も、かっこ悪い貴方も、みんなみんな、私の大好きな貴方だから。
ねえ、大好きよ。ずっとずっと、愛してる。
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