はじめまして、むぎわらのきみ

詳細は省くが、グランドラインのとある海域。モビーディック号のお姫様こと名前は麦わらの一味が乗るサウザンドサニー号に預けられた。

「や、やだああああ!」

そう言って大泣きした名前は甲板にぺたりと座り込んでひっくひっく、としゃくりあげて泣いている。

誰が何を言っても、その大きな瞳から涙を零して泣いていた。そんな名前にそっと近付いたのは麦わらの一味のコック、サンジだった。

「こんにちわ、可愛いお姫様」
「ふ、ふぇ…っ」
「知らない奴らばっかりで怖いよな。もう大丈夫、俺が怖い奴らから名前ちゃんを守ってあげるよ」
「ほん、っと、っ?」
「ああ、本当さ。それに、そんなに泣いていたら綺麗なお目目が溶けちゃうよ」

座り込む名前の前にそっと膝をついたサンジが名前の頬を伝う涙をそっと拭ってニコリと笑えば、キョトンとした目がサンジを映す。

泣く度にエースが言っていた言葉と同じ言葉を発するサンジに少しだけ安心したのか、恐る恐ると言った様子で名前の手がサンジに伸ばされる。

その手を優しく取って名乗ったサンジをじっと見つめた名前は満足したようにサンジの首に腕を回した。

「さんじ、おーじさまみたいー」
「そうかい?嬉しいな。名前ちゃんみたいな可愛いお姫様の王子様になれるなんて」
「くふふっ、わたしかわいい?」
「ああ、とっても」

嬉しそうにクスクス笑う名前の姿にサニー号の全員が「よくやった!サンジ!」と思ったのは言うまでもない。

すっかり泣き止んでサンジにくっついたまま離れない名前にチャンスと言わんばかりに皆が近付く。

一度落ち着いてしまえば、さすがモビーディック号のお姫様と言ったところ。強面のゾロ相手にですらニコニコと笑っており、ホラー要素満載のブルック相手にも涙一つ見せなかった。

「るひーは、えーすの、きょーだいなの?」
「そうだぞ!エースは俺の兄ちゃんだ!」
「じゃあ、わたしもるひーのきょーだいだねぇー!」
「おっ、いいな!それ!」
ルフィとは共通の話題、つまりエースの話で盛り上がり、時にはどっちが歳上なんだか分からないような言い合いをしたりして楽しそうに笑っている。
「ちょぱー」
「チョッパーだ!」
「ちょ、ぱー?」
「ハハッ!まだ言えねぇか」
「うそぷ」
「惜しい!ウソップ、な!」
「むー。ちょぱー、とうそぷ!」

ウソップは持ち合わせている面倒みの良さを存分に発揮し、名前の中でのお兄ちゃんポジションをしっかり獲得。

チョッパーとはまるで歳の近い兄妹のように仲良くなっており、皆に微笑ましく見守られていた。

「なみぃー、あきたー」
「だーめ。まだまだこれからよ」
「ろびんたすけてぇー」
「あらあら。ナミ、泣かせちゃったの?」
「えええ!?泣かせてないわよ!もぉー!じゃあちょっと休憩にしましょ」

ナミには着せ替え人形にされつつもいつもと違う洋服に心を躍らせ、ロビンには何となく母親のような感覚を抱いていた名前は二人にしっかり懐いている。

「アーウ!スーパーキュートじゃねぇか!」
「かわいい?」
「おめェ程キュートな奴は見た事がねェなァ!」
「本当に良くお似合いです。ところで…パンツ、見せてもらっても宜しいですか?」
「なみがだめっていってたからだめ!」
「ヨホホホ!手厳しいですねぇ」

フランキーの大きな手で頭を撫でられるのが、名前にとっては大好きなおやじいに撫でられているような気分がするようでニコニコと喜んで受け入れていた。

ブルックの冗談に対しては今まで経験したことのないことのようできゃっきゃっ、と喜んで笑っている。

クルー全員とすっかり仲良くなった、と思っていたがゾロだけが名前に話しかけることなくいつも様に甲板で目を閉じている。

そんなゾロをじっと見ていた名前はそっと近づいて隣にぺたりと腰を下ろした。

「アイツらのとこ、行かなくていいのか」
「ぞろねむい?」
「……あァ」
「おひるねするの?」
「あァ。だからアイツらのとこに…」
「じゃあわたしもおひるねするー」
「はァ!?」

じぃ、っとゾロを見つめてくる名前にそっと口を開いたゾロだったが、自分の問いには一切答えず話し出した名前に渋々答える。

子供の扱いなんて分からないし面倒はゴメンだと追い払おうとしたのに、隣にころりと寝転がられては驚きの声をあげるしかない。

あっという間にすよすよと寝息を立て始めた名前を自分の寝返りで潰してしまうのではと思うとおちおち寝てもいられずもう一度ため息をついた。

そっと小さな体を抱き上げて自分の腹の上に乗せればぴくりとも動かずに気持ち良さそうに寝息を立てる。

そんな名前の姿にフッと笑みを零したゾロもつられるように目を閉じて眠りにつく。

「あら、一番仲良くならなそうなのに随分仲良くなってるじゃない」
「ふふ、気持ち良さそうに寝てるわね」
「クソマリモのくせに羨ましいことしてんな、おい」

その後、しっかりと名前を腕に抱えて眠るゾロの姿にクルーの皆が暖かい目を向けていたのは当人達の知らないお話。

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