きみとであったあのひ

「いやぁ…でっかくなったよなあ…」
「そりゃそうだろうよい」
「拾った時なんかこーんなちっちゃかったのにな」
「そこまで小さくねぇだろい…でも、まぁ俺達からしたらそんなもんだったねい」

甲板を駆け回る小さな体を見てサッチが愛おしげに目を細める。つられるように名前へと視線を移したマルコも同じように目を細めてその姿を瞳に映す。

彼らがお姫様と出会ったのは、今から数年前。ログを辿ってやって来た島は海賊達の襲撃を受けたのか、焼け焦げた匂いと共に見る影を無くしていた。

そんな島で奇跡的に助かり、白ひげ海賊団に拾われたのがまだ赤ん坊だった名前だ。言葉を発することはおろか、自分一人で動くことも出来ない赤ん坊を見捨てるという選択肢をどうしても出来なかったマルコはその赤ん坊を抱き上げた。

すると閉じられていた赤ん坊の目がパチリと開かれて、くりくりの大きな瞳がマルコを映す。泣かれるかもしれない、と一瞬身構えたマルコに対して赤ん坊はきゃはきゃはと楽しそうに笑う。

「親をなくした子供なんて、この世にごまんといる。それでも、今この場所で俺が拾った命を投げ捨てるような真似はできねェよい」

そう言ってマルコが船長である白ひげに頼み込む姿を忘れることなど出来ない、とクルー達は言った。マルコの言葉に白ひげは小さく息を吸って答える。

「ガキを育てるってのは、簡単なことじゃねェぞ」
「分かってるよい。覚悟は、できてる」

真っ直ぐに白ひげを見るマルコの瞳に、白ひげは豪快に笑った。そこまで言うならこの船で面倒を見ようじゃないか、とそう言った白ひげが指先でそっと赤ん坊の頭を撫でる。

すやすやとマルコの腕の中で寝息を立てる赤ん坊はすくすくと成長し、白ひげ海賊団のお姫様となったのだ。

「初めて喋った時はマルコの名前じゃなくてオヤジだったな」
「あァ、そんなこともあってねい。柄にもなくちょっとショックだったよい」
「だろうな。お前すっげぇ複雑そうな顔してたぜ」

懐かしい思い出話に花を咲かせながら、思い出話の主人公を眺める。走り回っては転び、また立ち上がって走り出す。

小さい頃は転んだ瞬間に泣いていたのに随分逞しくなったものだと感心しながらも、怪我はないだろうかとハラハラする心は消えない。

過保護だと言われても可笑しくない程に大事に育てきた名前は、マルコにとっては妹というよりも娘のようなものだった。

「まるこおおおお!しまみえたあああー?」
「まだ見えねェよい」
「みえたらおしえてねええええ!」
「分かったよい。それより前見て歩かねェと転ぶぞ!」
「ころばないもーん!」

知らず知らずの内に緩む口元を押さえていれば小さな子供特有の高い声がマルコを呼ぶ。

両手を口の横に当てて叫ぶお姫様に笑いながら答えれば、また同じように叫んで走り始める。小さい頃は自分にべったりくっついていたのに、今では自分がいなくても楽しそうにしているのかと、ほんの少し寂しい気持ちが芽生える。

「…こういうのを親心って言うのかねい」
「なになに?マルちゃん泣いちゃう?」
「泣かねぇよい。気持ち悪ィ顔近付けんじゃねェ」

それと同時に成長を喜ばしく思う自分もいて、何となく親心が何たるかを分かったような気がしたマルコはふっと小さく笑った。

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