だから一人で歩かせたくない

久しぶりに箱根に帰ってきて早々にナンパされるなんて、一体誰が想像していただろうか。それもタチの悪いしつこいナンパ野郎に。無視しているのに懲りずに声をかけてくる男達に大袈裟にため息をついてみせる。

「疲れちゃった?んじゃ俺らと休憩しようよ」
「お金は俺らが出すからさ!ね?いいでしょ?」

ぐっと掴まれた腕が痛くて眉間に皺を寄せるけれど、男達は気にする素振りも見せない。あまつさえ私の肩に腕を回して、半ば無理やり引きずって連れて行こうとしてくる。本格的にヤバいと、冷や汗が流れて大声を上げてやろうかと思った瞬間だった。

「俺の連れに何か用か?」

ふわりと肩に回された腕に抱き寄せられて、ぽすりと誰かの胸元に顔が埋まる。鼻をくすぐる懐かしい匂いに肩から力が抜けて安堵の息を吐いた。チッ、と舌打ちをして逃げて行った男達を見送って顔をあげれば綺麗な顔を歪めた尽八がいて頬が緩む。

「ありがと、助かった」
「俺がたまたま通りかかったから良かったものの…どうするつもりだったんだ、お前は」
「いはいひはい!」

ぐいぐいと頬を抓られて痛みで涙が滲む。離してくれ、と尽八の腕を何度か叩けば呆れた顔をして頬から手が離れていく。話を聞けば、実家に用事があって帰ってきたら私が駅前で絡まれていたのをたまたま見つけたらしい。もう少し遅かったらと思ったら肝が冷えたぞ、と腕を組む尽八にごめんね、と謝る。だって私だってこんな面倒な人に絡まれると思ってなかったんだもん。

「ね、これから用事ある?」
「いや、実家に戻るだけだから、特に急ぎの予定はないな」
「じゃあ今のお礼にご飯奢る!一緒にご飯食べに行こうよ!」
「葵を今ここで一人にするのも忍びないからな。一緒に行くか」

折角だし荒北に自慢でもしてやろう、と笑ってスマホを取り出した尽八に体を寄せてピースをすればカシャリと撮影音が響いて画面に映し出される私と尽八の顔。悪戯っ子みたいな表情で靖友にメッセージと画像を送ったらしい尽八のスマホに電話が掛かってきて靖友の怒鳴り声が聞こえるまで後一分。


「何してンのォ!?このバァカチャンがァ!!!」
「うっ…ごめんてばぁ…」
「だから着いたら電話しろって言ったンだヨ!!!なんの為のスマホだヨ!!!ボケナスがァ!!!」
「あぅ…返す言葉もございません…」
「実家までゼッテー東堂に送ってもらえヨ」
「えっ、それは尽八に悪いじゃん…」
「お前…この期に及んでまだそんな事を…高校の頃から言ってるだろう。お前には危機感が足りんのだよ」
「二人してそんな怒んないでよぉ…反省してるってばぁ…」
「案ずるな荒北!この東堂尽八が責任をもって葵を家まで送り届けようではないか!」
「オー、頼むわァ」
「あれ…決定事項なの…」

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