満月だ。
ふと、空を見上げて思ったのは見たままの事で。でも、夜空なんて見上げる機会はそんなに無かったなぁとぼんやり思っていれば少し前の方から靖友の声が飛んでくる。
「なにしてンのォ?」
「満月だなぁって思ってた」
「ンだそれ」
私のぼんやりした返事に靖友がふはっ、と小さく吹き出して笑う。「さみィから早くしろヨ」と差し出された靖友の手に自分の指を絡めれば、ぎゅっと握られる。街灯が少ないのにはっきりと見える靖友の顔と、空に浮かぶ満月を交互に見つめてからそっと息を吸う。
「月、綺麗だね」
なんて、言ったって理系の靖友は分からないんだろうな。知ってる?月が綺麗ですね、ってI Love Youって意味なんだよ。分からないなら分からなくてもいいや、と思いながらもう一度空を見上げたのと同時に靖友が足を止めた。同じように私も足を止めて、どうしたのかと首を傾げる。月明かりに照らされた靖友の鋭い目と視線が交わって、
「月はずっと綺麗だヨ」
「なん、で…」
放たれた言葉に驚きで開いた口が塞がらなかった。意味を知ってるだけならまだしも、そんな百点満点の答えが返ってくるなんて思わないじゃない。ぽかんとする私に「そンくらい知ってるっつーの」と笑って歩き出した靖友に手を引かれて歩き出す。
「ずっと、綺麗だったの?」
「高校ン時からな」
「ふふ、そっかぁ…」
ちょっぴり照れくさそうに鼻を掻いてそっぽを向いた靖友に笑みが零れた。そっか。ずっと、高校の時から、綺麗だったんだ。ゆるゆると緩む頬が抑えられなくて、締りのない顔になってしまう。
「ニヤニヤしてんじゃねーヨ、バァカチャン」
「ふへへ、嬉しい」
いつまでも嬉しそうにニヤニヤと笑う私に、恥ずかしくなってきたのか少し乱暴にぐしゃりと頭を撫でられる。いつもなら文句を言うけれど、今は間違いなく嬉しさの方が勝ってる。繋いでいた手を一度離して腕に抱きついた私に「ッゼェ」と嫌そうな顔をした靖友だったけど、振り払われないってことは良いって事でしょ?