◇努力する姿勢は見せて欲しい

※R15

◇◇◇

付き合っている、とは言っても私達は比較的健全なお付き合いをしていた。そりゃキスやハグはしたけれど、肝心の行為には及んでいない。理由は簡単。お互い寮生活で、そんな行為ができる場所がないのだ。ホテルにでも行けばいいだろう、と友人には言われたけれど少し考えてみて欲しい。朝から晩まで自転車、自転車、自転車。そんな私達がホテル代を払えるだけの財力があるかと言われれば答えはNoだ。そんな金はない。ついでに時間もない。

「ん…っ、」
「声、出すなヨ」
「まっ、…ひっぅ、」

とは言っても好きな人に触れたいと思うのは当然で、こうして時間の許す限りキスに溺れることはしょっちゅうだった。首筋にちゅ、とキスを落とす靖友にぴくりと肩を跳ねさせれば意地悪そうな顔でかぷりと歯を立ててくる。

だめ、声出ちゃう。

必死に口を手で覆って声を我慢する私を壁に押し付けて首筋に唇を、舌を、歯を這わせる靖友の色っぽい表情に頭がクラクラする。足の間に滑り込んだ靖友の膝が、ぐりぐりと誰にも触れさせたことのない場所を刺激する。

「や、とも…っ、それや…っ、」
「葵、口開けろ」
「ぁっ、んぅっ…、んっ、ふ、ぁっ…」

ゆるゆると首を横に振って、抵抗にすらならない弱い力で靖友の腕を掴めば、その手は靖友の大きな手に絡め取られる。言われるがままに少し口を開ければ、噛み付くようなキスが降ってくる。まるで生き物のように口内で好き勝手に暴れる舌に吐息が漏れる。

ぁ、だめ、きもちい…

ぼんやりとする頭で、とろりと靖友を見つめて首に腕を回す。壁に押し付けられていた体がふわりと靖友に抱きしめられて腰に回った手がするすると下に降りて、足の付け根をなぞる。自然と足に力が入って、靖友にしがみつく力も強くなる。

「あんま煽ンな、バカ…ッ」
「だって…っ、ひぁっ…!?」

がぶりと思い切り噛み付かれたかと思えば、べろりと舌を這わされて何度も何度も繰り返される。ぢゅっ、と吸い上げられた首筋に走った甘い痛みに腰が抜けた。がくりと座り込みそうになった私を軽々支えて、もう一度キスをした靖友にぎゅうっと抱きつく。

「ンで、お前寮なんだヨ」
「それ、靖友もじゃん」
「アー…早く抱きてェ」
「卒業するまで我慢して」
「マジで卒業したら覚えとけヨ」
「…お手柔らかに、お願いします…」

ギラギラと欲に染まった瞳に見つめられて、ぐらりと心が揺れる。今すぐにでも抱いて欲しいと思う気持ちに蓋をして、靖友と額を合わせた。



「あれ?葵さん首のとこ、どうしたんですか?」
「ああ、これね。おっきい虫に噛まれちゃった」
「随分大きい虫なんですね。歯型まで付いてますよ」

クスクスと笑いながら私に凭れかかってくる真波に笑い返す。コイツ、分かっててわざと聞いてるな。「わー、すごーい」なんて言いながら靖友が付けたキスマークを指でつつく真波に苦笑いを零す。

尽八や隼人に関してはもう何も言ってこないし、最近じゃ「またか」みたいな視線を向けてくる。そんなに頻繁じゃないと思うんだけどなあ、と思いながらノートに今日の練習メニューについて記入していれば真波が何かを考えるように「でも、」と声を上げる。

「ん?」
「こういうのって、恥ずかしいから隠したい〜とかってなるんじゃないんですか?クラスの女子達は隠すって言ってましたよ」
「あー…まあ、そういう人もいるかもだけど…私の場合はこうしてると…」

と、そこまで話してチラリと視線を靖友に向ける。ほら、そろそろ来るよ。

「だァからちょっとは隠せっつってンだろォが!!!バァカ!!!」
「ね?こうなる靖友が見たいから隠してないの」
「あはは、葵さん相変わらず性格わる〜い」

ぐわりと歯茎を剥き出しにして怒鳴る靖友の真っ赤な顔にニコニコと表情が緩む。そんなに嫌なら付けなきゃいいのに、と思うけれど靖友はいつも首に跡を付ける。だから私は敢えて隠さずにそのままにしておくんだ。そうすれば靖友の照れた顔が見れるから。

だってこの跡付けられてる時、靖友すごい余裕そうな顔してるんだもん。私ばっかりやられっぱなしは嫌だし、ちょっとくらい仕返ししたっていいじゃない。ふふふ、と笑みを零せば真波がケラケラ笑いながら靖友に絡み始める。

「葵さんが見せびらかすの分かってるなら付けなきゃいいのに。荒北さんバカなんですか?」
「ア゛ァ!?付けねェって選択肢が選べンならとっくに選んでンだヨ!!!」

つまり、見られるのは嫌だけど私にキスマークを付けるのは止められないと。やっぱり、これからもキスマークは積極的に見せていこうと思ってしまった私は悪くないよね。

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