彼女を女にした男の余裕

※黒田視点

◇◇◇

「葵さんってほんとに友達多いですよね〜」

そう言って笑う真波の視線の先にはクラスメイトと思わしき男と話す葵さんの姿。明るくて気さくな葵さんには男女問わず人が集まる。現に俺や真波も葵さんにはかなり懐いているし、可愛がってもらっている自覚はある。

が、それ故に葵さんに恋愛感情を抱いてる男も少なくない。何度か告白されたという話を聞いた事があるし、今葵さんと話している男は誰がどう見ても葵さんに惚れている。はぁ?何で分かるか…って、そんなこと言われても普通に見りゃ分かんだろ。

「アイツ一回葵に振られてんだぜ」
「えっ、そうなんすか?」
「でも相手が荒北なら勝てる!とか何とか言ってるらしいぜ。なあ、靖友」
「ア?知らねーヨ」

部活開始前と言うこともあって、葵さんが男と話している姿を見ているのは俺と真波だけではなかった。新開さんや東堂さん、そして葵さんの彼氏である荒北さんもその場にはいた。

その男の発言にもビックリだが、荒北さんの前でその話ができる新開さんの方が俺的には驚きだ。ぎょっとした顔で荒北さんを見るけれど、荒北さんは全く気にしていない様子でケロリとしている。純粋にすげぇな、と思ったし、それと同時に疑問にも思った。

どんなに付き合っているとは言っても人の気持ちは移り変わるものだ。葵さんがいつ愛想を尽かすかなんて誰にも分からないのに、なんでそんなに余裕なのかと。

「イラッとしたりしないんですか?いくら彼女だって言っても、他の男とあんなに楽しそうにしてたら思うとこくらいあるでしょ」
「確かに荒北さんってば、俺とか黒田さんが葵さんとベタベタくっついてても何も言わないですよね〜」

真波はよく葵さんの後ろから抱きついたりしてるし、俺は葵さんによく頭を撫でられている。機嫌がいい時なんかはきゃあきゃあとはしゃぎながら抱きしめられる時もある。

実際それを荒北さんがどう思っているのは聞いた事が無かったけど、これでいつもムカつかれてたらどうしよう。返答によってはこれからの葵さんとの関わり方を考えるぞ、俺は。もしかしたら聞かない方が良かったのかもしれないと、少し怯えていれば荒北さんは「ハッ、」と鼻で笑って口を開いた。

「何とも思わねーヨ。葵が女の顔すンの、俺と一緒にいる時だけだからァ」

…カッコよすぎねェ?

ニヤリと上げられた口角と、葵さんを見る優しい目の奥にチラリと見えた欲。同じ男だけど、これは惚れる。葵さんに好かれてる絶対的自信もあるだろうけど、それよりも葵さんを誰よりも好いているのは自分だと確信してる。

「そんなとこで何してんの?」
「話、終わったァ?」
「うん。何か土曜日一緒に映画行かないか〜って」
「映画ァ?今お前が好きそうなのやってねェだろ」

きょとんとした顔でこちらに歩いてきた葵さんに荒北さんが話しかけて、二人で楽しそうに話し出す。誰が見ても、さっきの男と話してる時より荒北さんと話してる時の方が楽しそうな葵さんの姿に「なるほどな」と思ってしまった。

女の顔かどうかは分かんねェけど、間違いなく俺達と一緒にいる時とは違う顔をしている。きっと、これから先も葵さんにあの顔をさせられるのは荒北さんだけなんだろう。

…っつーか、荒北さんマジかっけェな…。

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