日頃からあれほど邪魔するなと

他の部活動がどうかは知らないが、我が箱根学園自転車競技部のマネージャーとしての仕事は数え切れない程ある。備品の整理と管理、発注。スケジュール調整に、洗濯、掃除。部員のタイムや個々人の記録と、練習中及びレース時のサポート。一つ一つ挙げていけばキリが無いほどの仕事は休む暇を与えてくれない。

大変だとは思うけれど、それよりも皆と一緒に汗を流している事実が、自分も箱学チャリ部の一員なんだと思わせてくれた。休日なんて存在しないし、朝から晩まで自転車漬けで休日に出かけたりオシャレやメイクを楽しんだりなんて事をしてる余裕はない。

机の上に広げられたノートには今日の練習で測った部員達のタイムが乱雑に記されており、私はこれからそれを綺麗にまとめる作業を行わなければならない。ジャージの袖をぐっとたくし上げて、髪の毛をまとめて机に向かう。カリカリと私がペンを走らせる音だけが部室に響く中、背後に迫る気配と腹部に回った腕にため息を吐きそうになった。

「なに?」
「別にィ」
「邪魔しないでね」
「ンー」

私の背後で猫のようにぺしぺしとまとめた髪の毛を叩いて遊ぶ靖友に一応声をかけるけれど、空返事をして再び髪の毛で遊び始める。

まあ、一人で遊んでるなら放っておいていっか。

そう思って放っておいたのに、髪の毛を触っていた手が首筋をなぞったり、がぶりと首筋に噛み付いたり。邪魔しないでね、と言ったはずなのに明らかに邪魔しにかかってくる靖友にとうとう我慢できなくなった。

「うるさい」
「ッ!?」

ぐるりと後ろを向いて靖友の胸ぐらを掴んで引き寄せる。ちゅ、と触れるだけのキスをして離れ際に唇に歯を立ててやれば、靖友は驚いたように目を見開いてから固まった。

「後で構ってあげるから今はイイコで待ってて」

ぱちぱちと目を瞬かせる靖友と、その後ろでぎょっとした顔をする部員達にニコリと笑いかける。

仕事の邪魔すんなって、普段から私言ってるよね?次邪魔してきたら分かってるよね?

そんな思いを込めてじっと靖友を見れば、視線を逸らしたままスススッと後ろに下がる。引き攣ったような顔をしてる部員達にもう一度ニコリと笑って机に向かえば、背後が途端にザワザワと騒がしくなった。

◇◇◇

「だから普段から邪魔するなと言ってるだろう」
「久しぶりに葵さん怖かったですね〜」
「普段あんまり怒る人じゃねェしな。つーか今回は俺達関係ねーし。全面的に荒北さんが悪いっすよね」
「だな。まあでも靖友的には悪いことばっかじゃなかっただろ?」
「黙らせる為とは言え、葵からキスしてもらえた訳だからな。良かったな、荒北」
「…ッセェ」
「あはは、荒北さん顔赤いですよ。照れてるんですか?」
「ア!?誰が照れてるっつーンだヨ!バッカじゃねェのォ!?」
「よくそんな真っ赤な顔で照れてないとか言えましたね」
「黙ってろ黒田ァ!!」

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