なんかすげェ罪悪感に襲われた

あ、ヤベェ。

そう思った時には、もう遅かった。ぐらりと傾いた体と近付いてくる地面。ガシャンッと大きな音を立ててチャリが倒れて、直後に自分の体が地面に叩きつけられたのが分かった。

いッてェし、目開かねェ。つーか、周りうッせーンだけど。ンな騒ぐほどの事じゃねェだろ。

「靖友!」

泣きそうなッつーか、もう泣いてるっぽい葵の声がどんどん遠くなって、次に意識が戻った時には保健室のベッドで寝てた。しん、と静まり返った保健室で時計を見れば、部活はもう終わる時間で机の上の書き置きには綺麗な字で『起きたら職員室まで来ること』と書いてある。

アー、やっぱオレぶっ倒れたのか。確かにちょっとオーバーワーク気味と言われればそうだったかもしンねーな。ガリガリと乱暴に頭を掻いてため息をつく。倒れるなんて何年ぶりだヨ、ダッセェ。福チャンにも迷惑かけちまったな、ともう一度ため息をついたのと同時にカラリと保健室の扉が開く。

「や、すとも…?」
「ワリ、荷物…」
「っ、靖友…!」
「うおっ、!?」

顔を覗かせた葵はオレを見て驚いたような顔をして、それからくしゃりと表情を歪ませて飛び込んでくる。

あッぶねェな!?勢いのまま後ろに倒れそうになったのを何とか堪えて受け止めれば、腕の中で葵が泣きじゃくる。

「よかっ、よかった…!も、ばっかじゃないの…!」
「ンで泣いてンのォ…」
「目の前で倒れられたらびっくりするに決まってるでしょ!?」
「わ、ワリィ…」

オレはどうにも葵の泣き顔に弱いらしい。ポロポロと涙を流して抱きついてくる葵に、罪悪感がすげェ。こんなに泣かれるとすッげェ悪いことしてる気分になンだけど。

とんとん、と背中を撫でて謝ればすんすんと鼻を鳴らしながら葵がオレの顔を覗き込む。不安げに揺れる目からつう、と流れた涙を親指でぐいっと拭って頭を撫でる。

「大丈夫だから、泣くなヨ」
「〜〜ッ、泣いてない…っ、!」
「イヤ、超泣いてンヨ」
「うるさい!」

葵のガキみてェな泣き顔にふっ、と笑えば葵がびしびしと叩いてくる。ンだそれ、全然痛くねェンだけど。

「心配かけてゴメンネェ」
「ほんとだよ。許さないから」
「ナニ、どしたら許してくれンのォ?ちゅーでもしよッかァ?」
「…する」
「すンのかヨ。ウケる」

ぎゅうっと葵を抱きしめて頭を撫でれてやれば大人しくなることは、今までの経験上よく分かってる。案の定オレの腕の中で大人しくしてる葵の顔を見て頬に手を添えた。冗談のつもりだったのに目を閉じる葵に思わずふはっ、と吹き出してしまう。

ほんと、バカだなコイツ。ンで、超カワイーの。オレの為にこんな目ェ真っ赤になるまで泣いてンだぜ。これで可愛くねェ訳ねェンだよなァ。葵の唇を食べるようにキスして、鼻、瞼、って順番にキスをする。ナニ顔真っ赤にしてンだヨ。オメーがするッつったンだろ。

「も、やだからね。こういうの」
「気をつけマァス」
「絶対だからね」
「ヘイヘイ」
「返事は一回!」
「ヘーイ」

ぶすりと唇を尖らせて不貞腐れた顔をする葵に適当に返事をするけど、葵はそれにすら唇を尖らせて怒る。わーッたって。ちゃんと気ィつけッからァ。ぽんぽんと葵の頭を軽く撫でて、葵が持って来てくれたジャージに袖を通す。

アー、そういや一回職員室行かなきゃなンねーのか。めんどくせ。オレ職員室嫌いなンだヨ。…別にどっかいてェ訳じゃねェし、このまま帰っちまうか。

なんて一瞬だけ考えたけど、さっきまでオレを心配してボロボロ泣いてた葵の事を思えば安心させる為にも一回保健室のセンセーのトコ行った方がいンだろーな、と思ってしまう。まだぐすぐすと鼻を鳴らしてる葵の手を掴んで、行きたくねェ職員室にオレは足を向けた。

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