※手嶋と黒田が洋南来てます
◇◇◇
「黒田〜!ひっさしぶり!元気だったか〜!」
「わっ、ちょ、葵さん…!?まっ、髪!髪ぐしゃぐしゃになりますって!」
「も〜!洋南来るなら来るって教えてよ〜!今日入学式ですって言われてびっくりしたよ〜!」
「いや、俺は連絡して速攻来た葵さんにびっくりしてますよ…予定とかなかったんすか…」
スーツを着て、綺麗な銀色の髪をおしゃれにセットした黒田の姿に感極まって飛びつくようにして頭を撫でる。わあわあと文句を言いながらも絶対に振り払ったりしない黒田はやっぱり私の中で一番可愛い後輩だ。
大学に行くとは聞いていたけれど、何度聞いても大学名を教えてくれなかった黒田から今日の朝突然送られて来た一つのメッセージ。
『俺、今日洋南大の入学式です』
びっくりしすぎて思わずベッドから落ちるくらいには衝撃だった。慌てて着替えて化粧をして、飛び出すようにして家を出た私がやって来たのは入学式の会場。そして一際目立つ銀色に声をかけた、という訳だ。
「勿論チャリ部!入るんでしょ?ふふふ〜歓迎するよ〜!」
「っス。また、サポート宜しくお願いします」
「まっかせなさ〜い!」
ぽんぽんと黒田の頭を撫でてふわりと笑えば、嬉しそうに笑った黒田がぺこりと頭を下げる。そこで漸く気が付いた。あれ、あの子確か…。
「総北の、手嶋くん?」
「です。箱学のマネージャーだった葵さん、ですよね?」
「わー!知られてる!何で!?」
「はは、有名でしたから。黒田からも聞いてましたし」
ケラケラと笑いながら話す手嶋くんも、黒田と同じようにスーツに身を包んで髪の毛を後ろで緩く束ねている。あれ、じゃあ手嶋くんも洋南ってことか。宜しくね、と差し出した手に重ねられた手はマメだらけで、うっすらとグローブ焼けの痕が残っていた。
黒田と笑いながら話す様子を見るに今日初めて会ったと言う訳ではなさそうだ。多分連絡取ったりしてたんだろうな。尽八も巻ちゃんに電話かけまくってたし、真波も小野田くんと何度か会ってたみたいだし。あ、そういえば葦木場が総北に幼馴染がいるとか言ってたっけ。こうやって考えると、案外箱学と総北って関わり深いんだなぁ。
「二人ともこの後予定ある?」
「いや、俺は特にはないっすよ。手嶋は?」
「俺も。家帰って飯食うくらい」
「よし!じゃあご飯行こう!奢ってあげる!」
可愛い後輩の友達はもれなく一緒に可愛いものだ。年相応の顔でくしゃりと無邪気に笑う二人につられるように頬が緩む。私の言葉にパッと表情を輝かせた二人に何食べたい?と聞きながらスマホを開く。ネットで良さそうな店を探しながら歩き出せば後ろから二人が着いてくる。
「俺までいいんですか?」
「ん?私の可愛い弟の友達だから特別!」
「えっ…?弟、って…え?」
申し訳なさそうな顔をしながら私の隣に立った手嶋くんに黒田を指差しながら答えれば、キョトンとした顔をしてから明らかに困ったような顔をされる。戸惑う手嶋くんを見て黒田がふはっ、と吹き出してつられるように私もくすくすと笑ってしまう。
弟みたいに可愛がってる、って意味ね。と黒田の腕に自分の腕を絡めて笑って見せる。なるほどな、と納得した様子の手嶋くんを見て黒田の腕から手を離してもう一度スマホを見る。あ、この店ここから割と近めだ。
「二人ともパスタ好き?」
「好きです!」
「えー、パスタぁ…?」
「何か言いたそうな顔ですね雪成くん」
スマホの画面を見せながら首を傾げた私にニコリと笑顔で頷いてくれたのは手嶋くん。やっぱり手嶋くん超いい子。大好き。その点、黒田と言えば露骨に不満げな顔で私のスマホの画面をスクロールする。
暫く好きにやらせてみれば「ここがいいです」なんて言ってスマホを渡される。画面に目を落とせば、ここから少し離れた所にある中華料理屋さんが表示されていて。行けなくもないけどちょっと遠いんだよなぁ、なんて思いながら地図を開いて行き方を確認する。
隣で「確かにここも美味しそう」なんて同意する手嶋くんの声を聞いてしまったら、そりゃあ行くしかないよなあと苦笑いが零れる。
「しょうがない。行くか〜」
「っしゃ!」
さすが葵さん、なんて言ってご機嫌に笑う黒田に頬を緩ませながら歩き出す。「さっき行こうとしてたパスタの店も今度連れてってください」と笑ってくれる手嶋くんは出来すぎてやしないだろうか。
あまりにもいい子すぎて堪らず頭を撫でてしまう。手嶋くんは一瞬だけ驚いたような顔をして、それからくしゃりと嬉しそうに笑って「なんか照れますね」なんて言うものだから益々ときめいてしまった。やだこの子可愛い。
ただでさえ年下はみんな可愛くて仕方ないのに、こんなに可愛いことされたらたまったもんじゃない。また靖友に甘やかしすぎって怒られちゃうなあ、と思った私と全く同じことを黒田も思ったらしい。
「荒北さんに甘やかしすぎって怒られますよ」
「私に一番甘やかされてる黒田がそれ言う?」
「俺の事甘やかしてる自覚あったんすね」
「そりゃあるよ!ユキちゃんが一番可愛いもんねぇ〜」
ふふふ、と笑いながら黒田のふわふわの頭を撫でてからスマホでもう一度道を確認する。そのまま持っていたスマホを構えてぱしゃりと二人の写真を撮って靖友に送り付けた。
『は?黒田?何で?』
『洋南進学したらしいよ』
『あと総北の元キャプテンの子も』
『まじかよ』
『どこいんの』
『この間行ったカフェの近く〜』
『黒田が中華食べたいって言うから』
『あっそ』
『靖友も今度一緒に行こうね』
『そーだね』
『帰り連絡しろよ』
『迎えに来てくれんの?』
『駅までな』
『やたー!』
『よろしくお願いします!』