性格悪くたっていいじゃない

廊下を歩く度に聞こえてくる陰口にはもう慣れた。

自分で言うのもどうかと思うが、比較的私の顔は整っている方だ。それ故に告白されることも多いし、男子からチヤホヤされることも少なくはない。加えて尽八や隼人と仲が良いということもあって、事態はどんどん悪化していく。

「わお、熱烈ぅ〜!」
「げ、ンだそれェ」
「ラブレター」
「ンなラブレターいらねッつのォ」

登校して下駄箱を開ければ目に入るのはかなりの量の熱烈なラブレター。一々目を通すのも面倒でそのまま全部ゴミ箱に捨てれば隣で靖友が声を上げて笑う。

「熱烈なラブレター全部捨ててンじゃねェか」
「靖友がいるからいらないんですぅ〜」

実際本当のラブレターだったとしても返事は当然ノーだし、相手にする気は初めから無い。クスクスと笑いながら靖友の腕に自分の腕を絡めれば、人前でベタベタするのを好まない靖友は一瞬だけ嫌そうな顔をする。それからチラリと視線を別の場所に移してからチッと舌を打つ。

「どしたの?」
「ジロジロ見られてンのがムカつくだけェ」
「ああ、私人気者だから」
「自分で言うなヨ」

私たちに向けられる視線は嫉妬半分、羨望半分。前者は女子で後者が男子と、それはもう分かりやすい。女子から向けられる羨望の視線は何も靖友と一緒にいるからではなく、チャリ部と一緒にいるから。そして、熱烈なラブレターに書かれる文章も大半がソレだ。

まあつまるところ、荒北靖友という彼氏がいながら人気のチャリ部と仲良くしてる私が気に入らないのだ。

「ウザくねェの、これ」
「ん?別にぃ。だって私が人気者の証拠だもん」
「だから自分で言うなッつーの」
「へへへ」

自分が何かをされている訳じゃないのに、私よりもずっと嫌そうな顔をしている靖友に思わずふは、と吹き出してしまう。なんで靖友がそんな顔してるのよ。

面倒だなと思うことはあるけど、本当にどうでもいい相手だったらここまでしない。気にかけるってことは少なからずその人に興味や関心があるということ。人から向けられる視線から好意だろうと悪意だろうと、視線の数はイコール人気度合いだ。

そんなこと言ったら女子にきゃあきゃあ騒がれてる尽八だって、一部の男子からは良く思われてない。単純に異性に騒がれている同性は憎たらしく見えてしまうのだ。

「嫉妬の目って悪い気はしないじゃん?靖友だってあの高坂葵と付き合ってるなんてずりぃ!みたいな目で男子から見られたらいいだろ〜!って気持ちになるでしょ?」

口元を手で覆ってふふふ、と笑った私に一瞬だけ驚いたような顔をした靖友がニヤリと悪い顔をする。

「性格ワッリィな」
「好きでしょ?」
「だァから自分で言うなッつの」

態とらしく舌を出して、てへっと笑えばぐしゃりと頭を撫でられる。靖友がいればそれだけで何があっても大丈夫って思ってるって、言ったらきっと恥ずかしいこと言うなって怒りそうだから言わないけどね。でも、私がこうやって笑ってられるのは本当に靖友のお陰なんだよ。

あとシンプルに嫌がらせだのいじめだのってくだらないことしてる子達は、いつまで経ってもどんなに頑張っても尽八達に相手にしてもらえないぞ!ざまぁみろ!って思ってるのもある。これもきっと言ったら性格悪いって言われちゃいそうだよね。

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