高校生は人の色恋に敏感なお年頃

「荒北と付き合ってるって本当!?」

そう聞かれるのはもう何回目だろうか。いい加減に聞き飽きたそのセリフに「そうだよ〜」と笑って返せば教室がザワつく。ううん、そんなにビックリすることかなぁ。というか、付き合ってるって公言した訳じゃないのに何でこんなに広まってるんだろう。クラスメイトからの質問を右から左に受け流しながら、ぼんやりと考えていればチラリと頭をよぎった男の姿。

あ、と口から零れた声に当然クラスメイト達が反応するけれど何でもないとだけ返してポケットからスマホを取り出す。ポチポチとメッセージを打って送信して、スマホをポケットにしまう。彼氏にラブコールですか〜?なんて茶化してくるクラスメイト達に「残念、部活連絡です」と返して席を立つ。まだ質問し足りません、と言わんばかりの残念そうな顔でこちらを見てくるクラスメイト達に盛大にため息を付きそうになったが何とか堪えて教室を出た。

「尽八!ちょっといい?」

そのまま向かったのは尽八の教室。からりと扉を開けて教室を覗き込めば、クラスの中心で囲まれていて相変わらずだなとため息が零れる。少しだけ声を張れば、尽八はすぐにこちらに気付いてくれて駆け寄ってきた。

「葵?どうした?」
「ちょっと相談なんだけど」
「ほう!この山神に相談とは、分かっているではないか!何でも聞いてくれ!」

始業前に突然尋ねてきた私に不思議そうな顔をした尽八だったけれど、私の言葉にパァッと表情を明るくさせた。ほんとに単純だよなぁ、尽八って。まあ、言えば面倒だから言わないんだけど。キラキラした目で私を見つめる尽八にアテレコするなら「さぁ!何でも言ってみろ!」と言ったところだろう。はぁ、ともう一度ため息をついてから疑問を口にすれば彼の表情がピシリと固まった。

「私と靖友が付き合ってるって、誰かに言った?」
「あ、や、いや…」
「私も靖友も、この話チャリ部の一部にしか話してないのね。それなのに今日学校来たらもう噂になってて。変だと思わない?」
「や、それは…俺だけではなくて、だな…」

珍しくトークの切れない尽八にニッコリと笑いかければ、益々尽八の顔から色が消えていく。申し訳ないと言う思いは多少あるようで、どんどん声が小さくなっていく。絶対に言いふらして欲しくなかった訳じゃない。学校なんていう狭いコミュニティの中じゃ、誰と誰が付き合ってる〜なんてすぐにバレるし広まる。それは分かっていたけれど、だからと言って積極的に言いふらしても良いとは言ってないのだ。尽八の口ぶりだと隼人も無関係ではなさそうだなと再び喉まで上がってきたため息を吐き出そうとした瞬間だった。

「東堂ォ!!!」
「あ、荒北!?」
「ベラッベラ余計なこと喋ってンじゃねェよボケナスがァ!!!」

廊下に響いた尽八を呼ぶ声は私と一緒に噂の中心に放り投げられている靖友で。思い切り尽八の頭にアイアンクローをかましながらギャンギャンと吠える靖友の顔は真っ赤だった。ああ、うん。ここに来るまでにもう何人かに聞かれたのね。あまりにも分かりやすいその姿に可愛いなぁと生暖かい目を向けてしまう。何か靖友の可愛いとこ見れたし何でもいいやぁ、なんて思いながら時計を見れば始業まで後五分。

「こ、こんなに広まるとは思ってなかったんだ!」
「知るか!!!広まるとか広まンねェとかの問題じゃねェんだヨ!!!」
「それにこの件に関しては隼人も…」
「新開ならとっくに一発くれてやってンヨォ」

次はオメーだ、と目をギラつかせる靖友に尽八がバタバタと暴れ始める。美形の顔を殴るなんて有り得ない、だとか。この山神に手を上げるなんて言語道断だ、だとか。ぎゃんぎゃんと騒ぐ尽八の背中にバシーンと良い音を立てて思い切り振り下ろされた靖友の手。うわぁ、痛そう。

「い゛っ…!?お、っま本気でやったな!?」
「あったりめェだろボケナス!!」
「信じられんな!?」
「ッセー!!バァカ!!」

反射的に瞑ってしまった目をそっと開ければ、あまりの痛さで涙目になった尽八が声を荒らげていて靖友は満足気な顔をしている。ああ、一発叩いてスッキリしたのね。本当は私が文句の一つや二つ言ってやろうと思っていたけれど、この状況じゃこれ以上の追い打ちは可哀想だ。

「尽八、後でジュース奢ってね」
「オレ、ベプシなァ」
「く…っ、奢ればいいんだろう!?奢れば!」

でも迷惑料くらいはもらってもバチは当たらないだろう。パチリとウインクをして尽八のいつものポーズを真似てみせる。見ていた男子がザワついたのは多分勘違いじゃないし、隣の靖友がそれに気付いて露骨に不機嫌になったのも勘違いじゃない。ううん、これは面倒な事をしてしまったかもしれないと思いながら指を下ろした。

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