別にヤキモチ妬いた訳じゃないから

にゃあ、と可愛らしく鳴いて私の膝の上に居座る黒猫の頭を人差し指で撫でる。もっと撫でろと言わんばかりに私の手に頭を押し付けてくる黒猫に頬が緩む。

「人懐っこいね、お前。どうしたの」
「にゃあ」
「私の事好きなの?」
「なぁー」

ゆっくりと黒猫を抱き上げて顔を近付ければ、ぺろりと鼻先を舐められる。うっ…かわいい…。腕の中でゴロゴロと喉を鳴らす黒猫を抱きしめて可愛がっていると、少し離れた場所で靖友が立ち止まっているのが見えた。多分、自分が来たら猫ちゃん逃げちゃうと思ってるんだろうなあ。クスクスと笑みを零しながら手招きをすれば、恐る恐る靖友が近付いてくる。

「何してたの?」
「…別にィ」

私の隣に腰掛けてチラチラと猫に視線を向ける靖友が可愛くて、ぷっと吹き出せば不機嫌そうな顔に睨まれる。本当は色々言いたいんだろうけど、私の腕の中で目を閉じている猫ちゃんを気遣って口を噤むもんだから益々笑ってしまう。

「抱っこする?」
「…できねェだろ」
「大丈夫だよ。ねー?」
「にゃあ」

しない、じゃなくて出来ない、と返すあたり抱っこはしたいんだろうなと思いながら彼の腕の中に猫ちゃんを渡す。引き攣った顔の靖友に抱かれながら大きな欠伸をして、もう一度目を閉じた猫ちゃんに靖友の目が輝いた。恐る恐る猫ちゃんの背中を撫でる靖友によかったね、と笑みが零れる。

「…可愛いじゃナァイ」
「ね、可愛いよね」
「あンがとねェ」
「私、何もしてなくない?」

クスクス笑いながら猫ちゃんの頭を指先で撫でて、ふと視線を靖友に向けて後悔した。驚くくらい優しい顔で猫ちゃんを眺めるその顔に少しだけモヤモヤする。そんな顔、わたし、見たことない。嬉しそうにする靖友が見れて嬉しいのも事実だし、私じゃなくて猫ちゃんに優しい視線を向ける靖友にモヤモヤしたのも事実。自分の中の嫉妬心に必死に蓋をして猫ちゃんの頭を指先で撫でていれば、クツクツと笑う靖友の声が聞こえてくる。

「…なぁに」
「こっちのセリフだっつーの。なァに不満そうな顔してンだヨ」
「してない」
「猫チャン相手にヤキモチ妬いてンの?」

鋭い靖友の言葉にふいっとそっぽを向いて図星を突かれたことを隠そうとするけれど、靖友の楽しそうな笑い声は止まない。もう、なんでこういう時だけすぐ気付くのよ。ばか。

「こっち向けって」
「やだ」
「何で」
「絶ッッ対バカにするからやだ!!」

私の肩をつんつんと突っつきながら楽しそうに笑う靖友にブツブツ文句を言えば、足元を猫ちゃんがすり抜けていく。にゃあと鳴いて私達をチラリと見てから草むらに姿を隠した猫ちゃんをぼんやり見送れば、肩に置かれた手に無理やり振り返らされる。

「ほら、オメーがヤキモチ妬くから猫チャンいなくなっちゃったじゃねーか」
「私のせいじゃないでしょ」
「ま、オメーも猫チャンみてェなモンか」
「うるせー」
「ハイハイ」

ぶすっと不貞腐れる私を見てクツクツと喉を鳴らして笑った靖友がぐしゃりと私の頭を乱暴に撫でる。乱れた髪の毛を手櫛で整えていれば唇に触れた熱と、間近に見える靖友の目。それだけで機嫌が直ってしまう自分のチョロさに呆れながら唇を尖らせれば、とうとう我慢できなかったのか靖友が声を上げて笑った。

「ガキかヨ」
「うるせぇー。…もう一回、ちゅーして」
「ハイハイ」

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