どちらと付き合っているという訳ではない

「東堂さんと新開さん、どっちと付き合ってるんですか」

そう言って私をギロリと睨みつける女の子達に心の中で「クッッッソめんどくせぇ!!!」と声を荒らげた。声には出さないが態度には出てる。間違いなく今の私の目は死んでいる。確かにチャリ部でマネージャーをやっていれば必然的にアイツらとの関わりは増えるし仲良くもなる。けれどアイツらと付き合った覚えはない。が、正直に付き合ってませんと言っても彼女達は納得しないし最悪近付くなだとか距離を置けだとか言われるに決まってる。

「どっちと付き合ってて欲しい?」
「はぁ!?ふざけてるんですか!?」

じゃあ曖昧にしとこう。なんてアホな事を考えた私の言葉は当然彼女達の癪に障ったようで、綺麗な顔を歪ませて怒鳴られる。順番に喋ってくれればいいものの、全員一緒に喋るものだから全くもって聞き取れない。五人一斉に喋られて聞き取れる人がいるなら今この場に来て欲しい。私の代わりに彼女達の言い分を聞いてあげて欲しい。

「どうせ自転車部のマネージャーになったのも、あの人達に近付きたかったからでしょ」
「…はぁ?」

どんどん過激になっていく文句を右から左に受け流して今日の練習メニューを頭の中で整理していた私に向かって告げられた言葉に、ピシリと空気が凍った。

「あのさぁ、別に私の事が嫌いだろうと何だろうとどうでもいいんだけどさ。チャリ部の文句言うのは止めてくんない?」
「っ、べつに、自転車部の文句言ったわけじゃ…!」
「その程度の半端な気持ちでマネージャーが務まる程度の部活だって言ってんのと同じだから、それ」

淡々と言葉を紡ぐ私に真正面から見つめられて、たじろいだ女の子達をギロリと睨む。別に私が嫌いだとか、そんなのはどうでもいい。王者としてのプライドとプレッシャー。全部背負って、真剣に、真っ直ぐ自転車に向き合ってるアイツらを馬鹿にするのは絶対に許さない。特定の誰かと仲良くなりたいだとか、そんな中途半端な気持ちで箱根学園自転車競技部に所属できると思われていることがムカついた。

「ていうかさ、尽八と隼人のこと好きなんだったらこんなくだらない事してないで振り向いてもらえる努力したらいいんじゃないの?まあ、コソコソくだらない事やってるような人をアイツらが好きになる訳もないけどね。バッカみたい。残念だったね、私になれなくて」

そう吐き捨てて鼻で笑えば、言葉を失った女の子達が呆然とした顔で私を見る。まだ何か言いたそうにしている女の子達に背を向けて部室へと歩き出せば後ろから名前を呼ばれる。振り返ろうと足を止めた瞬間、背中にのしかかった重みにぐぇ、と声が漏れた。

「葵さん怖〜い」
「真波…見てたの?」
「たまたま聞こえちゃっただけですよ」

ケラケラと楽しそうに笑って私の背中に張り付く真波をそのままにまた歩き出す。平然としてるけれど、正直あんな場面を可愛い後輩に見られるとは思ってなくて今すぐにでも逃げ出したい。ああ、もう。真波に幻滅されてたらどうしよう。自然と止まった足に真波がキョトンとした顔で首を傾げる。

「どうしたんですか?」
「…性格、悪かったでしょ。私」
「めちゃめちゃ悪かったです。葵さんが悪者みたいでしたもん」
「…幻滅した?」
「え〜?しませんよ〜。むしろ葵さんらしくて好きだよ〜」
「どういう意味だよ」

ぎゅうぎゅうと私に抱きつきながら楽しそうに笑う真波にホッと胸を撫で下ろした。特別に悪者みたいなのが私らしい、なんて失礼なセリフは聞かなかったことにして真波の頭をくしゃりと撫でる。もっと撫でろと猫のように頭を押し付けてくる真波の頭を撫でながら部室の扉を開けた。

「…何してンのォ?」
「葵さんが俺に嫌われたかもって泣きそうだったんで慰めてました」
「真波さん適当言うの止めてもらっていい?」
「全然分かんないンだけどォ…」

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