「知らない!知らないよ!僕は何も知らない!」
「はあ?信じられる訳ねえだろ。誰の差し金だ?」
「なにも、なにも知らないんだってばあ!うわああん!」
わんわんと子供のように泣く小さな妖に鵺の姿をしたザキがぐわりと牙を向く。絵面が本当によくない。私達は何もしていないのだが、これじゃあ私達が完全に悪者だ。数分前、空気がぐらりと揺らいで目の前が白く光った。私達に攻撃を仕掛けてきた小さな妖を捕まえて話を聞こうとしたところ、この状況だ。
この程度の妖が私達に攻撃をしかけようと思うはずがない。必ず、唆した奴がいる。ただ一つ気になるのは、こんなにも分かりやすく私達に自分の存在をアピールしてきた黒幕が何を考えているのか、だ。私達に自分の存在が気付かれたことを察知したのだろうか。
「どうする、コイツ」
「食べれば?」
「こんなの喰っても腹の足しになんねえよ」
「じゃあ殺す?」
「好きにしろ」
妖の首根っこを掴んでぷらりと揺らしたザキに原が楽しそうに笑う。別に逃がしてもいいが、私達が間違いなく妖だったと知られるのはあまり得策ではない。恐らくいるであろう黒幕が、もし私達の正体を探ってる段階だったとしたら尚更だ。このままコイツを逃がして相手に確信を持たせる訳にはいかない。
「なら俺が貰ってもいいか?」
「何に使う気か聞いてもいい?」
「実験用のマウスが欲しかったんだ」
「ふは、そりゃ死んだ方がマシかもな」
それなら殺すしかないかと指先で糸を弄んだところで古橋が手を挙げた。静かな顔でさらりと告げられた言葉にザキの手の中にいた妖の表情が真っ青になる。楽しそうに笑った花宮のGOサインと同時に大きく開いた白蛇の口が妖を飲み込む。このまま連れて行かれてどうされるか、なんて誰も知らないが相手は古橋だ。碌なものじゃないことは確かだろう。
「あーあ、かわいそ」
「殺してくれって泣いて騒ぐようになったら呼んでくんね?」
「悪趣味かよ」
「ザキも一緒に行くっしょ?」
「まあ行くけど」
「いや行くのかよ」
するすると私の腕を伝って登ってくる白蛇の頭を指先で撫でてやれば、ご機嫌な様子で巻き付いてくる。ずっと欲しかったであろうマウスを手に入れて珍しく古橋はご満悦だ。そして、花宮もニヤリと口角を上げていて何かを企んでいることは容易に想像が出来た。間違いなく黒幕がいることに気付いてから、張り巡らせた糸に獲物が引っ掛かる瞬間を、私はずっと待っている。