ぴりりと肌を刺すような痛みは私の糸に何かがあった証拠。ぱちりと目を瞬かせて糸の近くに置いていた蜘蛛達の視界を映す。私の作った巣を崩している背中は見覚えがあった。200年程前、自分の一族を殺されたと騒ぎ立てて私達に喧嘩を吹っかけてきたバカな男。
身に覚えのない出来事だったから、どうせ疑われて攻撃されるなら真実にしてやろうと笑ったのは花宮だった。本当の理由は知らないが、今となってはその話は真実だ。原が気に入った女は全員喰われたし、古橋が気に入った奴らは全員実験体にされていた。当然、私もやりたいようにさせてもらったし、花宮も瀬戸も好き勝手していた。
最終的にはザキが骨も残さず喰った為、傍から見れば男の一族なんてものが本当に存在していたのかすら怪しいレベルで綺麗さっぱり全てなくなったことは昨日のことの様にハッキリ覚えている。自分で自分の一族を殺したようなものなのに、私達に怒りを向けるのはお門違いではないだろうか。
「懐かしい顔じゃん」
「何?誰だった?」
「ちょっと前にさ、ウチに喧嘩吹っかけてきた男覚えてる?」
「ああ、アイツか」
ふ、と零れた笑みに原が食いついて全員の視線が集まる。果たしてコイツらは覚えているだろうかと思ったが心配は無用だった。良い思いをした古橋、原、ザキは勿論の事、花宮と瀬戸も覚えていて今回もまたあのバカ面を拝めるのかと悪い顔をしていた。
「また俺の為に可愛い女の子用意してくれたのかな」
「久しぶりに思いっきり喰えるってことだろ?」
「気が早いなあ…まあ、あの日から何年?200年くらい?経ってるから人も増えてるかもね」
「やっぱあの男だけ生かしといて正解だったなあ?」
私の視界に映る男は一人だけ。仲間がいるかどうかは分からないが、あの時の事を恨んでのことであれば納得はできる。バカな男の考えることだ。自分の一族を皆殺しにした私達を殺さないと気が済まないとでも言うつもりなんだろう。随分と暇な男だ。200年も私達への恨みと憎しみだけで生きてきたのだと思うと滑稽で仕方がない。
「わざわざ200年ぶりに会いに来てくれたんだもの。手厚く歓迎してあげなきゃね」
「やっぱ長生きはするもんだね」
「ふはっ、二回も殺られにくるなんて物好きな奴がいたもんだな」
張り巡らせた糸は、初めから男をこちら側へ誘い出す為の罠。男は糸が張ってある場所を辿って私達の元までやって来る。そこが、あの男の最期だ。獲物は張られた糸に気付かない。気付いた時にはもう身動きを取ることは出来ず、ただ静かに喰われるだけ。