考察と予想と昂りと

数日前からトラブルが続いていることに、私も花宮も何か変だと感じていた。今までこんなにもトラブルが起きたことなんてなかったし、こうも連続して妖が私達の前に現れるのもおかしな話だ。妖力が高く、位の高い妖は上手く妖力を隠して人間の姿で生活をしている。妖力が高ければ高い程、バレにくいし妖ですらその存在に気が付かない。だからこそ私達を妖だと認識できるレベルの妖であれば、気付いた時点で近づいてこない。わざわざ争う理由がないからだ。

逆に言えば、妖力がそこまで高くない妖は確実に人間だという確信を持てた相手であることと、その人に何かがあってもそこまで周りが騒がないような人であることの二つの条件が揃っている人間を選んで喰らう。万が一妖だった場合、自分が殺される可能性の方が高くなるし、目立つ人に何かがあった時に自分に疑いの目が向くことになるから。自分のレベルが高くないことを分かっていれば、わざわざ人目に触れるようなことはしない。

まあ、先日の鎌鼬のように自分に力があると勘違いしているタイプの妖も一定数いるが、そういうタイプの方が私達のような目立つ人種を避けたがる。妖は、その姿すらも武器にする。美しい見た目で人を引き寄せ、油断したところを喰らう。つまり、整った顔立ちだったり能力値がずば抜けていたりする人間は、人間の姿をした妖である可能性が高いのだ。だからこそ、鎌鼬のようなタイプの妖は私たちのような目立つ集団には近づかないようにする。

「誰か裏にいるでしょ」
「だろうな」

瀬戸の言葉に花宮が頷いて、大きくため息を吐く。あまりにも頻発する不自然な事件に人間たちが騒ぎ始めた。本当に人間の仕業なのか、もしかしたら妖怪じゃないか、妖怪なんている訳ないだろ、とネット中では大騒ぎだ。こうなってくると私達も心穏やかには暮らせなくなってくる。

人間の意識の中に妖怪という存在がないからこそ、私達は疑いの目を向けられずに暮らしている。意識の中にほんの少しでも妖怪という存在が紛れ込めば、何かがあった時にこの人もしかして…?と思ってしまうのだ。一度疑いを持ってしまうと、それを払拭するのは簡単ではない。

「私達が何だか分かっててやってるって事?」
「だろうね。人間の意識が俺たちに向くように仕向けてるんじゃない」
「ま、その辺で恨み買いまくってるからな」
「え、ドヤ顔しないでくれます?恨み買ってる筆頭は花宮だからね?」

何てことなさそうにケラケラと笑う花宮は久しぶりのスリルを楽しんでいるのだろう。実際この話を聞いてから原もザキも心なしかウキウキしているように見える。人間の意識の中にある妖の存在が希薄になってから、妖同士での争いは大きく減った。昔のように好きに暴れてもいいとなると浮足立つのもしょうがないだろう。

面倒だとは思いつつも、最近の頻発するトラブルを楽しんでいた自分がいたことも確かだ。花宮が何を考えているのかは知らないが、アイツが愉しいと思っているのならそれは間違いなく私達にとっても愉しいことだから。舌なめずりをしてニヤリと笑ったのは私だけじゃなかった。

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