素敵なあの日を再び

「思い出の場所でしょう?思い出してあげてよ。アンタが今立ってる場所で、アンタの大好きな奥さんが死んだのよ」
「そういや原が喰ってたな。髪の長い気の強い女」
「美味しかったって言ってたよ。色んな意味で、ね?」
「こ、っの…!クズ共が…!なんでテメエらみてえなのが何百年も生きてんだよ!さっさと死ねばいいんだよテメエらは!」

あの日の出来事が昨日のことのように思い出される。私達にあらぬ罪をかけて攻撃を仕掛けてきた男と、その男の前に立つ私と花宮。そして背後の一番高い木の上で目を閉じる瀬戸。辺りを取り囲む青い炎と少しづつ近づいてくる愉しそうな声と女の声。

青い炎をくぐって現れた原が持っていたのは、申し訳程度の布を纏った男の最愛の相手。既に原がつまみ食いをした後で涙に濡れたその顔に男が怒りの声を上げた。直後、男の目の前で首を嚙み切られて事切れた女は、文字通り原に喰われたのだ。

呆然とする男に追い打ちをかけるように犬神の一族が何人も炎をくぐり、燃えながら地面に転がった。苦しむ声と、肉が焼ける匂い。まるでボールやおもちゃを投げるようにぽいぽいと炎の中へ犬神の一族を投げ入れる古橋、原、ザキに男が涙を流して助けを乞う。

「お前が俺達に言ったんだろ?よくも、俺の一族を皆殺しにしてくれたなあ、ってな?」
「言霊って知ってる?アンタがそんな馬鹿なことしなきゃ、アンタの大事な家族は死なずに済んだのにね」

何とかして仲間を助けようと抗った男は、私の糸に囚われて動けないまま呆然と仲間の死を見つめるだけだった。絶望も恨みも、全てを抱えたまま生きていけばいい。どうしても苦痛に勝てずに死にたくなった時は自ら命を絶てばいい。そう笑って男を開放した私達の元へ、200年の時を経て男は帰って来てくれたのだ。

「このシチュエーション、覚えてるでしょう?」
「っ…!だめだ、だめだお前ら!来るな!帰れ、はやく…!」
「ふはっ!今更気付いても遅ェんだよ、バァカ!テメエの仲間はもうそこまで来てるぜ」

まあ、もう死んでるけどな。

その声と同時に炎をくぐって私達の前に転がる人の姿をしたナニカ。そのナニカに駆け寄ろうと男が足を進めた瞬間に糸を引けば、簡単に吊るされてくれる。大丈夫よ、今回もちゃんと見届けさせてあげるから。

燃えながら必死に助けを求める犬神に私の脚を突き立てる。ぎゃっ、と声が上がって動かなくなった男を糸で巻いて男の隣に吊るせば、男の頬を涙が伝った。

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