不要なものを切り捨てて

「で?食べちゃったんだ?」
「食べてないわよ。お灸を据えただけ」
「灸を据えただけで生首晒されてんのやべぇな」

学校中を騒がせた旧校舎の生首事件。真相を知っているのは一部の教員と第一発見者だった生徒、そして警察とその関係者のみ。教員は一様にして口を閉ざし、第一発見者だった生徒はあまりのショックにまともな精神ではいられなくなったと言う。警察関係者も同様に真相を語ることなく、生徒の中に真相を知る者はいなかった。

事件の真相を私から聞いてゲラゲラと笑い転げる原に対し、割と本気で引いているザキ。そして、眉間に皺を寄せる花宮と興味の無さそうな瀬戸。何かもの言いたげな古橋に見つめられて首を傾げれば、ガタリと立ち上がった古橋に腕を引かれる。

「いい気はしないな」
「何がっすか…」

珍しく不機嫌そうな古橋が私の左腕に触れて、傷があった場所にちくりと一瞬の痛みが走る。じわりと熱を持った腕に不満の声を上げれば満足気な顔の古橋が私を見る。コイツ、マーキングしやがった。

妖は共通して妖力を持っているが、同じ赤色でも種類があるように妖によって妖力の形は異なる。妖力の弱い妖は、妖力の強い妖に使役されることで自分に手を出すと怖いんだぞ、とアピールをして生き残っている。自分の色を相手に付けることで自分との関係性を示し、相手を牽制することが出来る。つまり、今この瞬間に私は古橋の色を付けられたということ。他の妖から見れば、私に攻撃をすれば古橋が出てくるぞという証明になる。

「うわ、独占欲〜!俺も付けちゃお」
「おいふざけんな、殺すぞ」
「とか言いつつ綺麗に付くじゃん。嫌がるならもっと本気で嫌がれよ」

楽しそうに笑って肩に腕を回してくる原がするりと私の首を撫でて、直後じわりと首筋が熱くなる。だから止めろって言ってんだろ。ばしりとその腕を叩き落とせば何が楽しいのか益々原の口角が上がる。

「まあ実際あの事件の時から分かってたしな」
「どうせ葉月が殺ってても殺ってなくても花宮が動いてたし」
「殺るならもっと静かに殺れよ」

あの日、事件現場を横切った時から気付いていた。あの男の妖力や匂いがしっかり残っていたから。加えてあの攻撃能力なら一人の人間を肉塊にすることなんて造作もない。妖は本来姿を隠して生きるものだ。その存在が広く認知されてしまえば、私たちは当然生きにくくなる。

あの男は自分が妖であること、人間よりも優れた能力を持っていることに驕りがあった。あのまま好き勝手されて、私達まで巻き込まれてはたまったもんじゃない。私達が愉しく生きる為に不要なものは切り捨てる。それが花宮のやり方であり、私達のやり方だ。

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