同じ過ちを繰り返す

蛟が動こうとした瞬間を、私は見逃さなかった。素早く引いた糸がしゅるりと女に巻きついて、地を這う白蛇が女の首に噛み付いた。ぶわりと吹いた強い風が女の髪の毛を揺らして顔が顕になる。立て続けに女を襲った真っ赤な炎に劈くような悲鳴が響く。

「チームワークばっちりじゃ〜ん」
「こういう時だけな」
「ほら、ザキ。久しぶりの女の子だよ」
「辞めろその言い方」

爛れた皮膚を必死に手で抑えて痛い痛いと呻く蛟は自分が見逃してもらえるとでも思っているのだろうか。ウチに手を出したんだ。喰われる覚悟で来ているものと私たちは認識している。つまりは私達のエサになってもらうということ。

クスクス笑いながらザキを見れば、文句を言いながらもその目はギラギラとしている。ぐわりと開けた大きな口で捕食する様はまさに鵺そのものだ。昂っているせいかゆらりと揺れる尻尾がザキの機嫌が良い事を物語る。

「お前らいる?」
「いらない」
「骨だけは俺がもらおう」
「もっと早く言えよ」
「骨まで食うのかよ」
「?だって美味ェじゃん」
「それお前だけだよ?」

口元の血を手の甲で乱暴に拭ってこちらを振り返ったザキに白い目を向ける。マジで何でも喰うんだコイツ。そんなんだから原と二人してゲテモノ喰いツートップとか意味分からん呼び方されるんだよ、学べ。

静かに骨を集める古橋はまた何か作ろうとしているのだろう。コイツも大概趣味が悪い。薬品だとか印については基本古橋に任せておけば間違いないのだが、如何せん趣味が悪い。妖の骨で作った薬なんて飲みにくいだろ。普通に。

「あ、原の印外れてっから。葉月のも外していいぞ」
「いやそれを早く言えよバカか」

最早人の形を成さなくなった蛟だったはずのソレを横目に原の印はどうしようかと思っていればケロッとした顔のザキが衝撃的な言葉を口にした。そういうのはもっと早く言えよと後頭部を叩けば不思議そうな顔でこちらを見てくる。後ろで瀕死の原が見えないのか。小さくため息をついて荒い呼吸を繰り返す原から私の印を外す。ふわりと淡い光が舞って原の呼吸が幾分か穏やかになる。

「生きてる?」
「死ぬかと思ったわ、普通に」
「いや別にお前は一回死んだ方がいいよ」
「ひどくね?」

お礼にちゅうしてあげようか、などと宣う原に本気で死にたいのかと喉元に脚を突きつける。鋭い先端が喉元に食い込んで冗談だって、と原が一歩退く。反省したかと思った数日後、またしても女絡みで揉めていた原に割と本気で助けなきゃよかったのでは?とため息をついた。

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