「付いてるよ」
「んむ」
「ほら、ちゃんと野菜も食べろ」
「…お父さん」
「まだそんな歳じゃない」
やってきたファミレスで私が頼んだのはオムライス。二人はがっつりステーキ定食を頼んでいて綺麗な顔で引く量を食べていた。すごい食うじゃん。二人ほどではないが、私もむぐむぐとオムライスを頬張れば口の端に付いたソースを諸伏さんが紙ナプキンで拭ってくれて、ちょっぴり苦手で端っこに寄せていた人参のグラッセを降谷さんが目敏く見つける。チッ、見逃してくれなかったか。
「お兄ちゃん、人参あげる」
「おいヒロ、甘やかすな」
「じゃあ一個だけ食べよう?な?」
「一個だけね」
しょうがないなあと笑って二つあったグラッセの内一つを私の方へと寄せた諸伏さんにぶすくれながら渋々一番小さな人参をスプーンに乗せて口に含む。数回だけ噛んで半ば丸呑みするように飲み込んで水で流し込む。口の中に広がった人参特有の甘みにうげぇ、と舌を出せば偉い偉いと諸伏さんに頭を撫でられる。
幼い頃に両親とこんなやり取りをしていたかもしれないが、私にはその記憶が無い。ましてや親戚に引き取られてからは、こんな風にされた事など一度もなかった。だからだろうか、年相応というよりも幼児退行している気がする。高校一年生でこれって大丈夫かと一瞬恥ずかしくなるが、高校一年生なんて充分お子ちゃまだよ。大丈夫。
多少ワガママでも子供っぽくてもついこの間まで中学生だったんだ。いけるいける。そう自分に言い聞かせて半ば開き直るかのようにスプーンで一つ残った人参を掬って諸伏さんの方へと向ける。
「お兄ちゃん、あーん」
「はいはい」
「…うええ、よく食べれますね」
「普通に美味しいと思うけど」
「そうですか。それは良かった」
にこりと笑ってあーん、と差し出した人参を笑って食べてくれる諸伏さんにうげぇ、と再び表情を歪ませれば彼はくつくつと喉を鳴らして笑う。再びオムライスを口に運んでふわふわの卵に舌鼓を打っていれば、降谷さんと視線が交わる。
「なんですか?」
「ああ、いや。年相応になったなと思っただけだ」
「え、それは、あれですか。思ってたよりガキだったな、という…?」
「なんでそう悪い方に捉えるんだ」
一人暮らしを仄めかす発言や、家族について一切語らないこと。加えて大人びた態度と考え方から、彼らは家庭環境が複雑なんだろうと、ある程度察していたらしい。だからこそ私を甘やかしたし、それに対して私が年相応に笑うようになったことで二人は安心したのだと。
だから悪い意味じゃない、と私の頭をぽんぽんと撫でた降谷さんに胸の奥で何かがぐううっと膨らんで緩む頬が抑えられない。顔が赤くなっているのもハッキリ分かるし、嬉しくて嬉しくて堪らないと全身が叫んでる。
悲劇のヒロインぶるつもりもないけれど、間違いなく私は愛というものに飢えていて、無条件に与えられたそれは暖かくて優しくて。行き場を失った大きな感情が涙になって溢れ出す。
「あーあ、ゼロが泣かせた」
「はぁ!?僕か!?」
いつの間にか隣に移動していた諸伏さんが私の背中を撫でて、溢れる涙を優しく拭ってくれる。彼らの優しさが、怖い。離れられなくなってしまいそうで、怖かった。これが普通だと、当たり前だと思ってはいけないのに願ってしまう。彼らの手を、離したくないと。