初めて萩原さんと会ったのは、夜の繁華街だった。男の人に絡まれていたところを萩原さんと松田さんが助けてくれたのが始まりだった。まだ高校一年生だった私が夜の繁華街にいることを、彼らはひどく心配して怒ってくれた。ごめんなさい、と素直に頭を下げて家まで送ると申し出てくれた二人にありがとう、とこれもまた素直に頭を下げたらたった今危機感について怒ったばっかりだろうがと再び怒られた。何て理不尽なんだと思った。
その数日後、またしても繁華街をうろついていた私は二人に見つかって怒られた。家に帰れないんだもんと唇を尖らせた私に、二人はしょうがないなと肩を竦めてファミレスに連れて行ってくれた。途中で席を外した萩原さんはきっとこれから行く予定だったお店をキャンセルしてくれたんだとすぐに分かった。好きなものを頼めとメニューを渡してくれた松田さんに甘えてデザートまで頼んだけれど、彼は怒らなかった。
そして、その日も家まで送ってくれて帰り際に渡された二人の連絡先。意外と筆まめでしょっちゅうメッセージを送ってくれる松田さんと、写真や絵文字がいっぱいの女子顔負けなメッセージをくれる萩原さん。今日も今日とて送られてきたメッセージには『迎えに行く』の一言。らしいなあ、と笑みを零して退屈な授業を乗り切った私は裏門近くの電柱に凭れて立っている松田さんめがけて飛びついた。
「松田さんっ」
「おっせーよ」
「先生の話が長かったのが悪い」
「へいへい」
くしゃりと頭を撫でてくれる松田さんにもっと撫でろと頭をぐりぐり押し付ける。呆れたように笑って私の頭をそれはもう思い切り撫でまわした松田さんにやりすぎ!と声を上げれば我儘だな、と声を上げて笑われる。行くぞ、と歩き出した松田さんの腕にくっついて歩き、到着したのはいつものファミレス。こっちこっちと手を振る萩原さんの元へぱたぱたと駆けていけば腕を広げて待っていてくれる。当然のようにその腕の中に飛び込めばおかえり、と頭を撫でられる。
「なんか髪ぐしゃぐしゃじゃね?」
「松田さんにやられた」
「ちょっと陣平ちゃん」
「コイツがやれって言うから」
「言ってないよ!」
ぷくりと頬を膨らませれば二人はケラケラと声を上げて笑う。それから萩原さんは私の髪の毛を優しく直してくれて、松田さんは好きなの奢ってやるから機嫌直せよ、とメニューを渡してくれた。一番高いの頼んでやる!と宣言すれば学生相手に容赦ねえなと松田さんは苦笑い。萩原さんは男に二言は無いよね?なんて言って松田さんを煽っている。
「男に二言は無いよね!」
「お前は調子にのんな」
「んぶ、」
萩原さんの隣で彼と同じように松田さんを煽れば、ひくりと頬を引き攣らせた松田さんが私の鼻を思い切り掴む。間抜けな声が出て、その姿に松田さんが愉快だと笑う。ひどい!なんてこと!
「はなして!」
「やだね」
「んもー!おこちゃま!」
「どっちがだよ」
「はいはい、そこまで〜」
幼稚園児レベルの言い争いを止めるのは毎度のことながら萩原さん。クスクスと笑いながら私達の言い合いを止めて、私の頭を撫でてくれるところまでがセットだ。陣平ちゃんにいじめられて可哀想にねえ、と私の頭を撫でてくれる萩原さんに痛いよう、と雑な泣き真似をする。
「ほら陣平ちゃん謝りなさいよ!」
「なんでだよ。どう見ても泣き真似だろ」
「まって今目薬…」
「目薬って言ってんじゃねえか」
三人でクスクスと笑っていれば、頼んでいた料理が運ばれてくる。オムライスを注文した私に対して二人はステーキセットとハンバーグセットを頼んでいる。一口頂戴と口を開ければそれぞれフォークに刺した料理を分けてくれてむぐむぐとそれを咀嚼する。おいしい。
お前のも一口寄越せ、と口を開ける松田さんの口にスプーンで掬ったオムライスを放り込めば、隣に座っていた萩原さんが俺も、と口を開ける。しょうがないなあとわざとらしく口に出して、松田さんの時と同じようにスプーンで掬ったオムライスを放り込む。美味しいね、と笑う萩原さんにこくりと頷いて口いっぱいに頬張ったオムライスを咀嚼した。