8.

期末テストは危なげなくクリア。ほんの少し不安がある所や、振り返りたい部分については二人に見てもらった。あの二人、頭も良いんだ。特に理数系が強すぎてびっくりした。私はどちらかと言えば文系なので、今度色々教えてもらおうと思う。

「ばばん」
「おおっ、学年三位!」
「やるじゃねぇか」

さすが咲桜ちゃん!と頭を撫でられて悪い気はしない。むしろ嬉しい。緩む口元をそのままにもっと撫でろと頭を押し付ける。宿題は当然あるが、平和な夏休みを迎えられることになった私は修了式を終えた足で、そのままファミレスへとやってきた。

あの日以来、夏休みに何がしたいかどこに行きたいかを聞かれて着々と夏休み予定は埋まりつつある。海にプールに夏祭り。今まで行ったことの無いものばかりで、今から浮かれているのはもうしょうがない。

「宿題は?」
「そんなに多くないよ、ほら」
「…お前んとこ多くね?」
「うそ?一週間あれば余裕じゃない…?」
「俺らの時が少なすぎただけ…?」

鞄から取り出した宿題の束に二人が頬を引き攣らせる。通っている高校が自称進学校という事もあって宿題は他の高校より多少多いかもしれないが、ちゃんとやれば普通に終わる量だと思う。あれ、そんなことない?きょとんと首を傾げた私に二人はお前がいいならそれでいいよ、と優しく頭を撫でられた。

そんな会話をした翌日。二人は大学とアルバイトがあるから会えない為、朝から宿題を抱えて図書館へと向かった。エアコンの効いた室内で黙々と宿題を進めて、小さく鳴ったお腹の音を合図に手を止めた。ぐぐっと背筋を伸ばして目の前の宿題の束を一度片づける。

スマホを片手に外へ出て、どこかでお昼にしようかなと思っていれば携帯電話が震える。画面には見慣れた名前が表示されていて、躊躇いなく応答ボタンを押して耳に当てれば一緒にお昼でもどうかとのお誘いだった。大学内の食堂は一般人も利用可能だし、何より大学に通っている二人を見てみたいというのもあって二つ返事で了承する。

迎えに来ようとする二人を何とか宥めて、二人の通う大学へと向かえばご丁寧に正門前で待っていてくれたらしい。迷子にならなかったか、知らいない人に声をかけられなかったと尋ねられてぷくりと頬を膨らませた。

「高校生だよ、わたし」
「高校生かどうかじゃなくて、咲桜ちゃんだから心配なんだよ」
「う…」
「分かったら黙って心配されてろ」
「んん…なんか丸め込まれた感じ…」

二人に手を引かれて大学構内へと足を踏み入れる。お昼時なこともあってざわざわとしている構内は常に誰かの視線を感じて落ち着かない。萩原さんの手をぎゅっと握り締めれば大丈夫だよ、と優しく手を握り返される。

私を隠すように少し前を歩く松田さんの服の裾をきゅっと掴めば、振り返った松田さんがふわりと表情を緩めて頭を撫でる。その瞬間に少し離れたところからきゃあっと小さな感性が聞こえてチラリと視線を向ければ、綺麗なお姉さんたちが頬を赤く染めてこちらを見ていた。

「二人共、有名人なの?」
「そんなことないと思うけどなあ。ねえ、陣平ちゃん」
「俺はともかくお前は有名人だろ」
「ええ、俺より陣平ちゃんじゃない?」

周囲から集まる視線が私ではなく二人に向けられているものだと気が付いて、ほんの少し気持ちが落ち着いた。二人の顔を交互に見ながら尋ねれば、二人は顔を見合わせて首を傾げた。多分どっちかじゃなくて、二人共だと思うよ。

正門から食堂まで大した距離はなかったはずなのに、一生分くらい視線を集めたような気がする。どっと襲ってきた疲れにため息を吐けば、心配性の萩原さんが具合悪い?大丈夫?と私の顔を覗き込むからあはは、と声を上げて笑ってしまった。
top
ALICE+