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あの日は結局何を言っても二人はお金を受け取ってくれなかった。ぶうぶうと文句を言う私を宥めながら家まで送ってくれた二人に、どうしたらお礼が出来るんだと考えながら湯船に浸かる。ふと思いついた色気も何もあったもんじゃないそのプレゼントは最適解にしか思えない。

「という事で、考えた結果がこれです」
「ふっ…くくっ…」
「降谷さん何笑ってるんですか」

二人に渡したのは五千円分の図書カード。何か形のある物をあげようかとも思ったが出会って間もない奴から渡されても扱いに困るだろう。かと言って現金をあげる訳にもいかない。そうなれば、図書カードかクオカードくらいしかないだろうと考えたわけだ。現金ほど貰いにくくもないし、あったらあったでラッキーくらいの物だろうから。

「でも高校生の財布で一人五千円って痛くない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。普段あんまりお金使わないので」

ありがとう、と図書カードを受け取ったもののどこか微妙な顔をする諸伏さんが恐る恐る私の顔色を伺ってくる。心配してくれてるんだなあと思ったらふふ、と表情が緩んでしまう。言葉を濁して伝えはしたが、端的に言えばお金ならある。

割と贅沢をしても余るほど振り込まれてるお金は、私の親戚とやらがよほど私と関わり合いたくないという証拠。とは言っても残念ながら、友人と呼べるほどの人がいないので休日に遊びに行くことも無いので私が使うお金は食費と光熱費くらい。つまり、金ならある。

「まあ、本以外も買えるので臨時収入だと思ってもらってください」
「そっか。じゃあ遠慮なくもらっちゃおうかな。丁度欲しい本あったんだ」
「ああ、最近よく読んでるあれか」

私の言葉の真意を探ろうとしたのか、察して引き下がったのかは分からない。それでもにこりと優しい顔で笑って図書カードを鞄にしまった二人に頬が緩む。やっぱり買って良かった。これ絶対最適解だったじゃん。私ってば天才。

「渡せるかどうかも分からないのに買ってたのか?」
「え?そんな訳ないじゃないですか。ちゃんと渡せると思ってましたよ」

緩む頬をそのままに二人を見ていれば、降谷さんが私を見て首を傾げる。そんな訳ないじゃないですか。そこまで考え無しじゃないですよ。

まあ仮に渡せなかったとしても図書カードなら最悪私も使えるし、暫く渡せなかったとしても図書カードくらいの大きさなら持ち歩いても大して邪魔にならない。

それに、二人には近いうちに会えるだろうと思っていたから。私はいつもほぼ同じ時間に同じ車両に乗っている。今まで特に意識しなくても出会えていたということは二人も大体同じ時間に同じ車両に乗っているということ。

つまり普通に生活していれば会える可能性が高いということだ。勿論私と会ってる時は、たまたまその時間にその車両に乗っているということも考えられなくはないが、私も彼らも学生という立場である以上は極端に時間が変わることは無い。

「だから、数日以内には会えるだろうなと思っていただけです」
「なるほどな」
「へえ、すごいな。探偵みたいだ」
「あはは、そんなんじゃないですよ」

ふふんと笑う私に二人が目を真ん丸にして感心したような声を出す。まあ大学生だと言っていたし、この線を使う大学は限られている訳だから二人ほど目立つ綺麗な容姿なら片っ端から探し回れば見つけることも容易いだろう、とも思っていた。

「本当に来るかどうか分からない人をずっと待つのはちょっとあれなので、数日粘って無理だったら片っ端からこの辺の大学回ろうと思ってましたよ。3日目で出会えてよかったです」
「あと何日くらい待てそうだった?」
「うーん…あと1日くらいですかね」
「待てなさすぎだろ」

呆れたように笑う降谷さんの表情は最初に比べてずっと優しい。まだ出会ってそこまで日は経っていないがそこそこ可愛がってもらってる自覚はある。ほとんど毎日電車の中で顔を合わせていて、時折一緒にあのカフェにも行っている。

頭を撫でてくる諸伏さんに子ども扱いしないで下さいと返すのも、これで何度目だろうか。最早恒例になってしまったやり取りに降谷さんがまたかと言わんばかりの顔で声を上げて笑う。

気恥ずかしさはあるが、二人に可愛がってもらえて満更でもないと思っている自分がいるのは事実だ。確かに、初めて出会ったあの日にあの優しい二人にまた会いたい、と思っていたのも事実だがまさかこんな風になるなんて思ってもいなかった。

二人の隣にいるのが、怖い。ただ純粋に心地良いと、そう思えなくなったのは、二人の隣が心地良かったからなんだ。
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