最早恒例になったいつものカフェでのお茶会で話題に上がったのは最近隣町にできた新しいカフェのことだった。
「所謂ブックカフェってやつみたいです。いろんな本があるんですって」
「あ、そこあれじゃない?ゼロが行きたいって言ってたとこ」
電車で一駅隣ともなれば気軽に行けそうなものだが、如何せん学校以外で外に出ることがない私からすると休日にわざわざ行こうとは思えない。かといって学校終わりに制服のまま行くのも嫌だし、着替えるのも面倒臭い。つまるところ、一緒に行ってくれる友達がいないが為にいつまでも行けずにいるという訳だ。
「学校に友達いないのか?」
「あ、すごい今刺さった。心に傷を負いました」
「よしよし、可哀想になあ。女の子には優しくしなきゃだめだぞ、ゼロ」
「なんかお前たち仲良くなってないか?」
一人だとどうにも行く気にならなくて、と笑う私に鋭いナイフを投げつけてきた降谷さんをジト目で睨んでえーんと雑な泣き真似をする。それに乗っかってきた諸伏さんと二人で顔を見合わせて笑い合えば、降谷さんが首を傾げて不思議そうな顔をする。
「私のお兄ちゃんになってくれたんです」
「全然意味が分からない」
「お兄ちゃんみたいって話だよ」
「へえ、あっそう」
興味なさげにそう言った降谷さんに嫉妬?嫉妬ですか?と笑いながら首を傾げれば心底呆れたような顔と低い声ではあ?と言われた。すこぶる怖かった。冗談ですよう、と不貞腐れるように唇を尖らせてお気に入りのカフェラテを口に含む。口の中でふわりと溶ける甘いミルクに頬を緩ませれば、それを見た諸伏さんもふっと表情を緩ませる。
「降谷さん達は行かないんですか?」
「行こうとは思ってるけどいつでも行けると思ったら足が向かなくてな」
「ああ、ちょっと分かりますそれ」
「じゃあ天野さんも一緒に3人で行けばいいんじゃない?」
マスター曰く私専用のマグカップらしい黒猫の描かれたそれを両手で持って降谷さんにチラリと視線を向ける。肩を竦めて笑ってからカップを傾けた彼と、なるほどと頷いた私を交互に見てからニコリと笑った諸伏さんに私と降谷さんの声が重なった。
「2人とも結局一緒に行く相手がいないからって事だろ?じゃあもう日程決めちゃえばいいんじゃないか?」
「いやだからってそんな急に…」
「確かに。それもそうですね」
「天野まで…」
確かに名案かもしれない。私も降谷さんも結局のところ相手がいないから別にわざわざ今じゃなくてもと思ってしまっているのであって、相手がいて行かざるを得ない状況を作ってしまえば多少面倒でも行かなければならなくなる。まして、私としてはこうして一緒にいられる相手は彼らしかいない訳だし断る理由を探す方が大変だ。
「私は降谷さんと諸伏さんが良ければ、是非お願いしたいです」
「だってよ!ゼロ!」
「なんで僕に言うんだ」
「嫌だって言うとしたらゼロかなって」
「誰も言ってないだろ、そんなこと」
二人と一緒に出かけられるのかと思ったら頬が緩んで仕方がない。まだ何も決まっていないと言うのに既に当日の服装や髪型を気にしている自分に気がついて恥ずかしくなった。ああ、もう。何浮かれてるのよ、私のバカ。雑念を振り払うように頭を振っていれば、何してるんだと降谷さんの呆れた声が聞こえてくる。
何でもないです、と赤くなった頬を隠すようにそっぽを向いて答えれば降谷さんは一瞬だけ目を見開いてからわざとらしく咳ばらいをして私から目を逸らす。なんとなく、耳が赤くなってるような気がしたのは気のせいだろうか。