全然寝れなかった。
服装、髪型、化粧。考え始めたらキリがなかった。二人がどんな格好をしてくるのか。もし私だけ張り切りすぎた格好だったらどうしよう。かと言ってラフすぎるのもどうなのか。というか化粧ってどのくらいしていいのかな。あんまりけばけばしいのはダメだよね。髪型もあまり複雑なことは出来ないけど、いつも通りというのも何となく気が引けてしまう。
そんなことを考えていればあっという間に時間は過ぎて家を出る時間になってしまった。歩きながら何度も自分の姿を確認して変じゃないかとそわそわしてしまう。というか、何で私こんなに緊張してるんだ。待ち合わせ場所についたのは予定していた時間より30分も早くて、思わず苦笑いが零れる。
「どれだけ楽しみなのよ…」
手で前髪を整えてスマホを開く。対して興味も無いネットニュースをぼんやり眺めながら待っていればふわりと影が出来て視界が暗くなる。ぱっと顔をあげるとニコニコと笑う知らない男の人が二人。あ、やばい。目合っちゃった。そう思い、慌てて目を逸らすけれどもう遅い。
「君、可愛いね。もしかして彼氏と待ち合わせ?」
「無視しないでよ。さっきあんなに可愛い顔で俺らのこと見てくれたのに」
「ほらほら、顔上げてよ」
無視しているというのに懲りずに話しかけてくる男の手が無遠慮に頬に触れて、無理やり顔を上げさせられる。肩に回された腕と掴まれた手首のせいで逃げることも出来ない。可愛いね、と笑うその顔にあの時の駅員の表情がチラついて吐き気がした。
アンタらに可愛いって言われたくてオシャレをした訳じゃない。真っ直ぐに目の前の男を見据えて足を上げ、勢いよく踏み込む。ぐっと踵のヒールの部分が男の足の甲を押し潰して、その痛みに目の前の男が顔を歪めて私から手を離す。
驚くもう一人の男の腕を振り払って距離を取れば、二人がギロリと私を睨みつける。周りの人達は一体何事かと遠巻きに見つめているのに助けてくれる気配はない。勢いに任せて攻撃してしまったが、これからどうしよう。このままじゃ折角したオシャレが台無しだ。
「テメェ…!調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「僕の連れが何か用か?」
「降谷さん…!」
怒りに任せて男が振りかざした腕を背後から褐色の腕が捕まえて、そのまま流れるように男が地に伏せる。ニコリと笑った降谷さんにホッと安堵の息を吐いて駆け寄れば呆れた笑った降谷さんが私の頭をぽんと撫でる。
倒れた男を何とか抱えながら覚えておけよ!とテンプレのセリフを吐き捨ててバタバタと逃げるように去っていた男達を見送って降谷さんを見上げればぱちりと目が合う。
「助かりました」
「お前はほんとに…こういうトラブル多くないか?」
「可愛いからですかね」
「自分で言うな」
「あはは、冗談です」
正直なところ私の顔に対する周りからの評価は割と高いんだとと思う。外を歩いていれば男性からの視線が刺さるし、きっと傍から見ても美人なんだろう。とは言ってもそう思っていることをホイホイと口に出す訳にもいかず、冗談だと笑えば降谷さんはまた呆れたように笑っていた。