どこにも行かないように

木下と成田が自主練中にぼそっと呟いた言葉にかちんと来てしまう雛。「まあ、こんだけ頑張っても試合出れるかどうか分かんないしな」「まあそれはある。仮に出して貰えたとしても活躍できるかどうかも怪しいしな」って笑ってる2人にぐわ〜〜っと来ちゃう。

「……なにそれ」って泣きそうな顔で眉間に皺を寄せる雛の姿に(あ、やべ)ってなるけどもう遅くて「なんで、そんなこと言うの」ってキッと睨まれるから「あ、いやほら、言葉のあやっつーか」「本気で思ってる訳じゃなくてさ、ほら、ノリ?みたいな」って2人とも言うんだけど雛の怒りは収まらない。

「試合に出れるとか、出れないとか、関係ないじゃん。活躍できるか、できないかが練習しない理由になるの…?」って声を震わせながら雛が手をぎゅっと握り締める。「じゃあ、試合にも出れない、ベンチにも座れない、活躍するチャンスさえもらえない私は、いなくていいじゃん」って泣きそうな顔で体育館を飛び出して行った雛を追いかけられずに2人が立ち尽くす。

「今雛が走ってったけど、なんかあっ…たみたいだな」って困ったような顔の縁下が体育館に入ってきてショックを受けたような死んだ顔で立ち尽くす2人から事情を聞いて盛大にため息を吐く。「はぁぁ…お前らなぁ…」って呆れた顔をする縁下に「分かってるよ!アイツが、そういうの1番傷付くって…分かってたんだけど、」「いつもの、…っていうか、…言い訳だな、これじゃあ」って木下も成田もぎゅっと拳を握りしめて唇を噛み締める。

「ちゃんと、話せよ」って縁下に送り出されて雛を追いかける2人。外の水道で顔を洗ってる雛に声をかければ、びくりと肩を揺らして赤くなった目でこっちを見るから、自分たちが彼女を泣かせたのだと突きつけられているようで心が痛む。

「あ、のさ」って謝ろうとした木下の言葉を遮って雛が先に声を上げる。「ごめん。変なこと、言った。試合に出てもない私には、分かんないことだから。でしゃばって、ごめん」って言われてハッと顔を上げた2人の目に飛び込んできたのは眉を下げて、無理やり笑う雛の姿。

西谷と喧嘩をした、あの日に同じ顔で笑った雛と重なって慌てて雛の腕を掴む。「違う、雛は悪くねぇ…!悪い、ほんとに、嫌な思いさせた…!」って頭を下げる木下と「ごめん。雛にとって、1番しんどいこと言った。分かってたのに、…ッ、ほんとに、ごめん」って頭を下げる成田の姿に雛の目からぽろぽろ涙が零れて、口からは嗚咽が零れる。

「お前が、誰よりも俺達を応援してくれてるのに、それを、裏切るようなこと言ってごめん」「俺達を信じてくれる、雛の気持ちに応えられるように頑張るから」って言われてしゃがみ込んでしまう。「ばか、ばかぁ…!」って顔を覆う雛の隣にしゃがみ込んで「うん、バカだった」って呟く木下。

「もう、二度とあんなこと言わないで」って涙で濡れた真っ赤な目で睨んでくる雛に「うん。もう、絶対言わないから」って言いながら涙を拭う成田。「つぎ、同じこと言ったら、校内放送で2人に傷物にされたって大騒ぎしてやる」って結構なガチトーンで雛が言う。

「エ゛ッ、それは…ちょっと、止めてもらいたいんだけど…」「そんなの2人が言わなきゃいいだけでしょ。何よ、また言うの」「いや言わないよ、言わないんだけどさ…!?脅し方が斜め上過ぎるんだって…」「脅してないし」「いやいやいや、レベル高すぎてビビるわ」って3人で話してくうちにいつも通りになって3人で体育館に戻れば縁下と田中と西谷がパス練習しながら待ってる。

「お、帰ってきた」「ちゃんと仲直りしたか〜?」「お前ら雛のこと泣かせたってマジか!」ってけらけら笑われて「それデカい声で言わないで貰えます!?」「知らない人が聞いたら誤解招きそうだから止めて!?」って大騒ぎ。縁下が2人に全部事情を話したせいで何があったかは全部バレてる。

木下と成田に絡みに行く田中と西谷をぼけっと見ていればいつの間にか隣に来ていた縁下が「ちゃんと話した?」って聞いてくるから、こくりと頷いて「次やったら公開処刑するって言った」って返せば「そりゃ怖いな」って縁下がくつくつ喉を鳴らして笑う。「でも、ちょっと2人の気持ちも分かったかもしれない」って雛が言うから「??」って首を傾げてしまう縁下。

「だって、私も試合に出る訳でも、ベンチに座る訳でも無いのになんでここにいるんだろうって、思うもん」って言うからギョッとして雛を見る。どこか遠くを見ながら呟く雛に恐ろしさを感じてしまい、突然ぎゅっと腕を掴む縁下に「な、何…?」ってビックリする雛。「お前が、俺たちの隣にいてくれる事が、心強いんだからな」って言われて良く分かんないまま「…うん?」って首傾げるよ。

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