救世主は意地悪で性格の悪い男

ちょっと遠出した帰りに乗った電車の中で痴漢に遭ってしまった雛。後ろからお尻を撫でられてびっくりして固まってたら腕をぐいっと引かれて誰かにぶつかる。ハッとして顔をあげれば怖い顔の二口がおじさんを睨みつけててぽかんとしてしまう。

「おいおっさん、次の駅で降りろよ」って言う二口に真っ赤な顔で怒ったおじさんが「何だお前!」って怒るけど横からぬっと現れた青根に腕を掴まれて逃げられないし圧が強すぎて一気に静かになる。でも大事にしたくないから「あ、の…!へいき、だから」って言うんだけど「はぁ?」って怪訝な顔をされた挙句に「そんなひっでぇ顔してんのに平気な訳ねーだろ。バカじゃねぇの」って何故か罵倒されて益々ぽかんとする。

「こういうのは逃がすから付け上がるんだよ。取れるもんは取れ」ってあくどい顔でニヤッと笑った二口に被害者のはずの雛の方が(うわぁ…)って気持ち。おじさんなんてもう顔面蒼白だし可哀想になってきちゃうけど、落ち着かせるように背中をとんとん撫でる手に(でも、悪い人じゃないんだろうなぁ…)って気持ちになる。

そのまま次の駅で降りて駅員さんや警察と話をして雛が大事にしたくないので、ってことでおじさんは厳重注意を受けて帰ることになる。お礼を伝えて帰ろうとしたら「家、どっち?」って聞かれて「え?なんで…」って返したら心底呆れた顔で「は?お前こんな時間になってんのに1人で帰ろうとしてんのかよ。ほんとバカなんじゃねぇの。学習能力なさすぎ」って鼻で笑われてちょっとムカッとする。

「……何なの、さっきから。助けてくれたのはありがたいけど、そんなにバカバカ言われたらさすがにムカつくんだけど」って眉間に皺を寄せたら「ははっ、なんだ元気じゃん。ほら、どうせ方向一緒だし帰ろーぜ」ってからから笑って歩き出すから本日何度目かのぽかん。

「…は?」ってぽかんとしてたらとんとんって肩を叩かれて青根が二口の方を指差すから渋々歩き出す。「ねぇ、何で方向一緒って分かるの?」って聞いたら「は?お前烏野のマネージャーだろ。この線乗ってるってことは最寄り一緒だと思っただけ」って言われて「気付いてたの?」ってびっくりしちゃう。

「そりゃあな。一応?負けた相手ですから?」って嫌味ったらしく言われて「……あっそ」って素っ気なく返す。電車に乗ったらまだちらほら人がいて、さっきまで平気だったのにいざ被害を受けた場所に戻ったらちょっと怖くなってぎゅっと手を握り締めたら青根の大きな手にそっと手を取られてふるふる首を横に振るからふにゃっと緩む。

二口がなるべく人の少ない所に連れてってくれて、雛を壁際にして自分達が壁になるように立ってくれるから雛もホッと息を吐く。その後も何気ない会話を振ってくれて最後まで何だかんだ優しかった二口は家の近くまで送ってくれる。

「んじゃ、後は気をつけて帰れよ」ってひらひら手を振って帰ろうとする二口とぺこっとお辞儀をして帰ろうとする青根に「待って…!あの、ありがとう…!ほんとに、助かった」って声をかける。青根は一瞬びっくりしたような顔をしてから気にするなと言わんばかりに頭をぽんと撫でてくる。

二口もびっくりした様に目を見開いてからニヤッと悪そうな顔で笑って「んじゃお礼ってことで、今度昼でも奢ってよ」ってスマホ取り出してくるから何故か勢いのままに連絡先を交換する。「後で連絡するから。無視すんなよ」って笑ってひらひら手を振って去っていく二口を見送って「……ほんとに、最後まで良い奴だった…」ってびっくりしちゃう。

もちろん後日ほんとに連絡が来て休みの日に2人でご飯行ったり、普段からやり取りしたりするようになる。二口がいつから雛を知ってて、いつから興味を持っていたのかはまた別のお話ですね。

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