立ち向かえそうな気がしているだけだ

(Side:雛)

呆れた顔の縁下に手を差し伸べられて体を起こす。くしゃりと乱れた髪の毛を梳くように撫でつけてくれた研磨にお礼を言って座り直す。

「何でもいいけど、暴走だけはするなよ」
「あっ、なぁにそれ。普段から私が無茶苦茶してるみたいじゃん」
「みたいじゃなくて、無茶苦茶してるだろ」
「成田まで!そんな事ないよ!ねえ、研磨」
「え゛っ…そ、うかな…」
「うそ!?」

ジト目で私を見てくる縁下と成田に抗議の声を上げて研磨を味方に付けようと思ったのに、盛大に裏切られて驚きの声が出る。うそじゃん、研磨は私の味方してくれるんじゃないの!?と、口元を押さえて露骨に驚いた顔をすれば、顔がうるさいと額を弾かれた。ひどい。痛い。

「んむぅ、けんまのいじわる」
「日頃の行いでしょ」
「やーーー!そういうのやめてーーー!」

ちょっぴり小馬鹿にしたようにふっと笑ってこっちを見てくる研磨から目を逸らすようにして目を瞑り、耳を塞ぐ。あーあーあー聞こえなーーい。

「雛、ちょっといいか?」
「へ?いい、です、けど…」
「そんな怯えた顔しなくても、別に取って食ったりしないよ」
「そ、そんな顔してないです!あっ、大地さんなんで笑うの!」
「はいはい。分かった分かった。ほら、おいで雛」

皆でふざけてわいわいしていれば、後ろから大地さんに声をかけられる。心做しか、真剣な顔をした大地さんに釣られるようにきゅっと唇を噛み締めれば、ふはっと吹き出した大地さんに頭をぽふぽふ撫でられる。差し伸べられた手を取って立ち上がり、手を引かれるまま先輩達が話していた場所に連れてこられた。

「まーた遊んでたのか?」
「田中のせいでコケました」
「割といつもじゃんそれ」
「加減を知らないんです。馬鹿だから」
「ウチのリエーフみたいなもんか」
「リエーフは可愛いからいいけど、田中は別に可愛くないから…」
「いやリエーフも別に可愛くはねぇよ???」
「雛のことだから後輩が可愛いってだけじゃないかな」

大地さんに手を引かれるまま大地さんとスガさんの間にぺたりと座れば楽しそうに笑ったスガさんが田中達の方を指さす。わざとらしくぷいっと顔を背ければ旭さんもまたか、と言わんばかりの顔で笑っている。黒尾さんと衛輔くんも声を上げて笑っていて、海くんにもにこにこ微笑まれて、体育館に来るまでの赤ちゃん扱いを思い出してぶすりと頬を膨らませた。なんだよう。ねえスガさんその顔で頭撫でるのやめて。

「それで、私が呼ばれた理由って…」
「あー、それな。うん、あー…」
「お助けキャラなので色々動き回って見てほしい的なやつです、よね?」
「ッ、悪い。あれだけ、怖い思いをした雛に、こんなこと…」

私の問いに黒尾さんが言葉に詰まった。なんて言おうか、と悩むように視線を彷徨わせる姿に気付けば口を開いていた。だって、何となく、そんな気はしていたから。お助けキャラの力を借りて手がかりを集めて出口を探す、ということは私が頑張らなきゃいけないということ。つまり手がかりを探すためには体育館で嫌だ怖いなんて泣いている暇はないのだ。

それは当然先輩達も、皆も分かっている。だから私に頼まざるを得ないけれど、ついさっきまで泣きべそかいてた私を引き摺り出すのは、と思っているんだと思う。その証拠に、私の言葉を聞いた大地さんがきゅうっと眉間に皺を寄せて苦しげに顔を歪ませたから。大地さん達が、そんな顔しなくていいのに。

「ほんとは怖いし、行きたくないって気持ちも、無くはないけど、ずっとここにいるのはもっと嫌だから」
「雛…」
「みんなが、また、バレーできるように、絶対ここから出るための手がかり、見つけるから、だから…っ、がんばります」

ぎゅうっと拳を握りしめて真っ直ぐに大地さんを見る。怖くて怖くて、泣いてしまいそうなほど怖いけれど、そんなこと言ってられない。ずっとここにいる方が怖いし、それに、何よりも皆がこのままずっとここにいなきゃいけないことの方が辛い。みんなの為なら、頑張れるから。

とは言え、1人で手がかりを探しに行く勇気なんて無い。さすがに怖い。でも、一緒に来てもらって怪我をしたり、何かあったりするのも怖い。でもやっぱり、ひとりは寂しい。ぎゅうっと目を瞑って、大きく息を吸う。それからゆっくりと息を吐いて、そろりと先輩達を見つめる。

「でも…たぶん、ひとりは、怖くて泣いたり、弱音吐いたりは、しちゃうと思うので…っ、一緒に、来てくれますか、?」

恐る恐る、何とか吐き出した言葉に真っ先に返事をしてくれたのは誰だっただろう。気付けば隣にいた大地さんとスガさんに抱きしめられてて、目をぱちくりと瞬かせる。

「あっ、たり前だろ…!このバカ!」
「俺らが雛を1人で行かせるわけないだろ!?」
「1人で行くつもりだったことにビックリしてるんだけど…!?」
「えっ、あっ、大地さん?スガさん?えっ、旭さんまで、」

私に対して声を荒らげる事なんて滅多にない大地さん達の珍しい姿に驚きながらも、こうであって欲しいと願っていた答えに頬が緩む。よかった、一緒に来てくれるんだ。えへへ、嬉しい。ふにゃふにゃと頬を緩ませる私を見て、黒尾さん達も優しく笑っていて。今ならあの怖い女の人のお化けにも立ち向かえそうな気がした。
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