(Side:雛)
「頑張りますとは言ったけど怖いものは怖いじゃん!!」
そう声を張り上げて扉の前でしゃがみ込んだ私を見て黒尾さんが苦笑いを零す。衛輔くんなんてお腹抱えて笑ってるし、スガさんも笑ってるのバレてますからね。
「大丈夫か?」
「大丈夫だったら日和ってません」
「だよな」
「よ、よし…!いきます…!」
「大丈夫。ちゃんと一緒にいるから」
「あ、旭さんんん…!」
最初の探索はとりあえず3年が行こう、という事になったらしく私と一緒に体育館の外に出ることになったのは大地さんとスガさんと旭さん。お言葉に甘えてガッッチリ大地さんの手を握り締めている私を見てスガさんがくつくつ喉を鳴らしながら笑って私の頭を撫でる。
「小鹿ばりに震えてんなあ」
「スガさんはさっき私の事笑ったので嫌です」
「ごめんって」
「ゆるしません」
ぺたん、ぺたん、と廊下に響く私たちの足音と、話し声。一階には一年生の教室が三つと、渡り廊下を挟んで特別教室が三つ。まずは教室を見てみようと、扉を開けるとガラガラと音が響く。よく見る教室ではあるけれど、気持ち悪さと不気味さは今まで感じたことが無いものだった。
「とりあえず色々見てみるか〜」
「雛は必ず誰かの傍にいろよ」
「できれば俺も一人になりたくないんだけど」
「出たなビビり髭!ビビり退散!」
「スガさん私も!私も退散やって!」
「はいはい静かにしなさいね」
わいわいといつものようにじゃれ合いながら私と大地さん、スガさんと旭さんがそれぞれペアになって教室の中を見て回る。後ろの個人ロッカーは恐る恐るビビりながら開けたのに何も入っていなくてちょっぴり拍子抜け。一番開けるのが怖かった掃除用具入れも何も無くてきょとんとしてしまったのは私だけじゃなかった。
「…何も無いな」
「ですね」
「後は机の中か」
「暗すぎて見えないし、手突っ込むしかないわけだけど」
「めっちゃ嫌ですね!!」
「俺も嫌だ」
教室の中をぐるりと一度見回してから皆が一番避けたかった机の中の探索を匂わせた大地さんに私と旭さんが抗議の声を上げる。とは言え、やらなきゃいけないことに変わりはない。嫌だ嫌だと文句を言いながら机の中に手を突っ込む気持ちはさながらブラックボックスに手を突っ込むようだった。
「ぅ…う、うぅ…」
「こういうのはもう一思いにさ」
「スガよくそんなケロッとした顔で手突っ込めるな」
「見えないんだからもう潔く行くしかないよな」
「見えないから怖いんじゃ…?」
恐る恐る時間をかけて手を突っ込む私と旭さんに対して、スガさんの思い切りの良さはどうかしてると思う。引き気味の私達に良い顔でグッと親指を立てたスガさんは本当に肝が据わってると思う。なんかもう一周回って怖いですこの人。
そうやって、何も起きないのを良いことに油断したのが運の尽き。スガさんのおふざけに大地さんが呆れて、旭さんが笑いながら宥める姿を見ながら机の中を覗こうとしてしゃがみ込んだ私は、机の中にあった『目』に腰を抜かした。
ぎょろりとこっちを見つめる『目』から目が離せない。ぺたりと座り込んで目を見開く私に気付いた3人が慌てて駆け寄ってくるのが視界の端で見えたのと同時に机の中の目がゆっくりと目を閉じる。
「雛?どうした?」
「ッ、めが、こっちみてて、」
「目?どこ?」
「つくえの、なか…」
「何にもなさそうだけど…」
駆け寄ってきた3人に震える指で机の中を差すけれど、既にあの『目』は見えなくなっていて。一体なんだったんだ、と混乱する私の頭を撫でてからスガさんが机の中に手を伸ばす。その瞬間にぞわりと背筋を冷たいナニカが這って、咄嗟に声が出た。
「す、がさん!だめ…!」
「ッい、って、」
「スガ!?」
「へーきへーき。ちょっと切っただけだから」
私の声に驚いたのか肩を跳ねさせたスガさんの顔がたちまち歪んで、机の中から引いた手の指先に滲む赤。ひらひらと手を振って大丈夫だと笑うスガさんを見て、放送の声が頭をよぎる。
『みんナを助けルのがお仕事ダから、頑張っテね。』
『みんナが、死なナいといイね。』
ひゅ、と喉が鳴って嫌な予感だけが頭を巡る。私のせい?私のせいでスガさんが怪我をした?それも、セッターにとって一番大切な指先に怪我を負った。私のせいで、スガさんが。
「すが、さ…ッ、すがさん、すがさん…!」
「だーいじょうぶだって。紙ですぱんってやったくらいだって。何ともないから」
「だって、血が…ッわたしの、わたしのせいで…!」
「雛のせいなわけねーべ。俺が何にも考えないで手突っ込んだのが悪いんだから、雛はなーんも気にしなくていーの!」
両手でむにっと頬を包まれて、ニッと笑ったスガさんと目が合う。もう血も止まってるから、と見せられた指先は確かに血は止まっていて薄らと切り傷が見えるくらいだった。縋るようにその手を握り締めてぎゅうっと力を込めれば、スガさんがぎゅっと握り返してくれる。そのまま私を宥めるように背中を撫でて抱きしめてくれたスガさんに甘えて、服の裾を握り締めた。