(Side:雛)
盛大に、それはもう盛大に声を上げて泣いてしまい、非常にいたたまれない気持ちになりながら大地さんの後ろを歩く。だって怖かったんだもん!!しょうがないじゃん!!きゅうっと大地さんのジャージの裾を握り締めれば、立ち止まって振り返ってからぽんぽんと頭を撫でてくれるから呼吸が楽になる。
「雛、さっきの紙持ってる?」
「あります、えっと…これ、」
「ありがと。ちょっと借りるね」
「雛はアイツらんとこで休んでな」
「はあい…」
旭さんがさっき見つけた紙を持って大地さんと黒尾さんが話してる方に歩いていって、その後ろを追いかけるようにスガさんが歩いていく。もちろん、私の頭を撫でるのは忘れてない。小走りで縁下達がいる方に向かってスペースを開けてくれたノヤの隣に遠慮なく腰を下ろす。
「盛大にギャン泣きしてたな」
「うるせー」
「また何か見たのか?」
「まあ…」
「マジかよ。そんなホイホイいんのか」
「田中チビんなよ」
「誰がチビるか!!」
いつものように笑いかけてくれる皆に肩の力が抜けてホッと息を吐く。幽霊と戦う方法、なんてよく分からない内容で謎に大盛り上がりしている皆を見てけらけらと声を上げて笑ってしまう。除霊するにもどうやって除霊するのって話じゃん。全然解決になってないじゃん。いつの間にか恐怖心はどこかに消えて、いつものように笑って話をしていれば縁下が私を見てふっと微笑む。
「なに?」
「いや、顔色良くなったなと思ってさ」
「え、そんな酷かった?」
「まあ割と?」
「ええ…ごめん…」
「なんで謝るの」
親指をするりと目の下に這わせてゆっくりと頬を撫でた縁下の手にされるがままになる。泣いたから目赤いかもなぁ、と思っていれば縁下も同じことを思ったようで後で冷やさないとな、と困った顔で笑われた。
そうこうしている内に大地さん達から声がかかり、美術室には縁下達と一緒に行くことになった。ようやく出番だとぴょんぴょん飛び跳ねて気合い充分な西谷に対して、残りのメンバーはやや警戒気味。それもそのはず、毎度毎度私が泣きながら帰ってくる上に得体の知れない幽霊がいるともなれば、怖いに決まってる。
「だ、大丈夫!ちゃんと、すぐ教えるから!」
「マジで頼むぞ」
「見えないのが一番怖えよな」
「神様仏様雛様って手合わせとこ」
「俺もやっとこ」
「ねえ拝むのやめて」
折角元気付けようと思ったのに全員揃っていつも通り。私に気を使っていつも通りに見えるように振舞ってくれてるのかなとも思ったけど普通にふざけてたから多分本当にいつも通りなんだと思う。
「くれぐれも無茶はしないこと。特に西谷と田中!分かってるな?」
「縁下は雛のこと頼むな。手繋いでやって」
「木下と成田も気をつけてな。西谷と田中のこと、よろしく」
体育館を出る直前の3年生の心配の仕方が、我が子を初めてのお使いに送り出す親のようだったと後から研磨に言われたけど、私もすごくそう思う。まだ何もしてないのに大地さんから圧かけられてるノヤと田中に笑いそうになっていれば、スガさんからはまさかの赤ちゃん扱い。旭さんに関しては私と並んでバカ二人が心配らしい。
「物凄く心配されてる」
「雛がすぐ泣くからだろ」
「お前ら普段の行いを正してから言えよ」
「縁下パイセン怖い…」
「誰がパイセンだ」
先輩達に見送られて体育館を出て渡り廊下を目指す。道中で繰り広げられる会話は、最早いつも帰り道と同じだ。先輩達と一緒にいる時も勿論安心するけれど、やっぱり皆と一緒は安心する。いくらか息がしやすい感じがして、肩の力が抜けるような感じがした。
体育館を出て歩き出したは良いものの、すぐに問題が発生する。そう、先程の教室だ。スガさんの指先すぱん事件があった、あの教室の前を通らないと目的の美術室には行けない。つまり、私にしか見えなかったであろう、あの大きな影がいる可能性が極めて高い場所を通らなければならないという事になる。帰りたい。
「雛?どうした?」
「いるか、わかんないんだけど…その、あの教室…っ、さっき、いたから、」
足取りが急に重くなった私に気が付いた縁下が首を傾げて、何とか伝えようとするけれどたどたどしくなってしまう。必死に先程の教室に大きな影がいる可能性を伝えれば、全員の顔が強ばる。しっかりガッツリ生きた人間では無いナニカが見えている私は当然怖すぎて泣いているけれど、そんな怖いものが見えない恐怖も相当だと思う。
目の前にいるかもしれない、背後にいるかもしれない、そしてそれを自分では気付くことができない。そんな気持ちで顔が強ばるのも当然だ。いるかどうか分からない。そんな不確定な情報で皆を怖がらせて、気を張らせてしまっていることが心苦しい。
「っごめ、」
「でもいるかもって言われると心の準備できるよな」
「だな。いつ驚かされるか分かんない方が怖いし」
「まあ見えてる雛はもっと怖いだろ」
「デカい影ってどんくらいデカイんだろうな」
「見えないと余計にサイズ感気になるよな」
咄嗟に謝ろうとした私の言葉を遮って、まるでお化け屋敷に向かうくらいの軽さで皆が話を始める。驚きで足を止めた私に全員がきょとんとした顔で振り返って、手を伸ばしてくれる。優しくて頼りになる皆の為に、私に出来ることを精一杯頑張ろうって、そう思えた。