何があっても、全部一緒だから大丈夫

(Side:雛)

教室に近付くにつれて、足が重たくなっていく。ばくばくと心臓が音を立てて、呼吸が浅くなっているのが自分でも分かる。ゆっくりと深呼吸をするように息を吸って吐くけれど何度繰り返しても酸素を取り込めているようには思えなくて。

「雛、手貸して」
「きのした…?」
「いざとなったら引きずってでも連れて帰ってやるから大丈夫」
「だな。なんなら担いでもいいぜ」
「それが1番いいんじゃね?」

爪がぎりぎりと手のひらに食い込むほどに握りしめた手をそっと包んだ木下の手に安堵の息が零れる。縁下と木下に手を繋がれて、先頭には自信満々なノヤがいて、後ろには田中と成田がいてくれる。たとえ、私が恐怖で動けなくなってしまっても絶対に連れて帰るから、と。真っ直ぐな視線に少しずつ心が落ち着いていく。

「多分、いない…とおもう、」
「お、じゃあ行けるな」
「暗いってだけで怖いよな、普通に」
「七不思議とかあるくらいだし」
「何だっけ、烏野の七不思議」
「え、烏野に七不思議ってあんの?」

恐る恐る近付いた教室から人の気配はしなかった。とは言え、絶対にいないと断言することも出来なくて、曖昧な主張だったにも関わらず皆はすんなり信じてくれて。怖い怖いと言いながらもずんずん突き進む皆に怖いものはないんだろうか。

「ここまで来たらお化け屋敷だと思って楽しむしかないだろ」
「……わたし、お化け屋敷嫌いなんだけど」
「知ってる」
「前行った時マジ泣きだったもんな」
「でもあん時も何とかなったし、大丈夫だろ」

そんな簡単に言うけどさぁ…と思いながら小さくため息を吐けば、先頭を歩いていたノヤがくるりと振り返ってニッと笑って口を開く。

「ま、雛がヤベー時は俺らもヤベーし、何かあっても全部一緒だから大丈夫だろ!」
「…危ない目に遭うかもしれないんだよ…?」
「それは全員同じだろ。雛を1人にしていい理由にはならねぇよ」

よっしゃ行くぞー!と気合いを入れて歩き出したノヤの後ろ姿に思わず笑みが零れる。それじゃあ、私が死にそうな目に遭っても一緒に死んでくれるって言ってるようなもんじゃん。そう思ったら、意地でも皆をそんな目に遭わせちゃいけないと思わざるを得ない。

「西谷かっけーな…」
「熱烈っちゃ熱烈だけどな」
「一歩間違えたらプロポーズだろ」
「さすがノヤさん…!かっけーぜ…!」
「ほんと…かっこよすぎだよ」

ノヤの言葉にときめいたのは私だけでは無かったみたいで、全員が胸を押さえたり天を仰いだり。誰が見ても男前で最高にカッコいいノヤが一緒なら、もう無敵なんじゃないかって、本気で思わせてくれる頼もしすぎる後ろ姿に危うく惚れちゃいそうになる。

「で、どっち行けばいいんだよ」

…前言撤回。颯爽と歩き出したはずなのに、ぴたりと立ち止まってくるりと振り返ったノヤの堂々たる発言に全員がズルっとずっこけた。行き方分かんないのに先頭歩いてたのか、この男。苦笑いの縁下が真っ直ぐでいいと思うよ、と暗闇を指差せばノヤがイキイキと歩き出す。

「とりあえず、あっちでいいんだよな?」
「うん。この渡り廊下の先に、特別校舎があるみたい」
「美術室だっけ?」
「七不思議系だと彫刻が動く〜みたいなやつか」
「彫刻なら見えるしイケるだろ!」
「ホラーを物理で解決するのか…」

私の顔を覗き込んで首を傾げた縁下にこくりと頷けば、田中、木下、成田がわいわいと話し始める。私にしか見えないお化けも嫌だけど、動く彫刻も普通に嫌なんですけど。あと、怖くなるからそういう会話止めて。もうちょっと怖くならない話をしてくれないかな、と3人に念を送るように見つめていれば、クスクス笑いながら縁下が声を上げる。

「雛が怖くなるから怖い話止めてってさ」
「そんなこと言ってないし」
「お、雛怖くなくなったのか!やるじゃねぇか!」
「そんなこと言ってないし!」

ぶすっと唇を尖らせて不貞腐れる私を見て、ノヤが笑顔を向けてくるけど普通に怖いですけど?こんな暗闇で平気になる訳ないじゃん。何言ってんの。ぶうぶうと文句を言いながら歩いて、ふと気付く。私、全然普通にここまで来れてる。

さっきまであんなに怖くて、歩きたくなくて、足が重かったのに。皆と一緒に部活終わりに帰り道を歩くような、軽い足取りでここまで来れている。思わず笑ってしまって、皆に不思議そうな目を向けられたけど、これが笑わずにいられるものか。

「やっぱり、皆がいないとダメかも」
「何だよ急に」
「ノヤだけじゃなくて、みんながカッコよすぎるって話!」
「どこにそんな話が…?」
「多分雛しか分かってないな、これ」
「私が分かってればそれでいいの!」

気合い入れて美術室行こう!と、いつものように笑えたから。きっと私は、皆と一緒ならどこまでだって歩いて行けるって思えたんだ。
top
ALICE+