子ども扱いを通り越して赤ちゃん扱い

(Side:雛)

怖いものは怖いし、不安なものは不安。私のその気持ちを受け止めてくれた2人には本当に感謝しているし、ありがたいのだが時間が経って冷静になればなるほど恥ずかしい。高校生にもなって怖くて泣いちゃう、不安で泣いちゃうなんて、赤ちゃんにも程がある。

現に教室の中を探す黒尾さんに対して、衛輔くんは私の隣で手を握ってくれている。時折、握った手をゆらゆら揺らしてみたり、ぎゅっぎゅっと力を込めたりして私の顔を覗き込んでくる。最早あやされている気分だ。黒尾さんも鍵を探しながら、時折私を見て手を振ったりしてくる。私は幼稚園児か。

「これ、ほんとに取れるんですかね…」
「まあ取れなかったら取れるまで一緒にいてやるから心配すんな」
「衛輔くん…!かっこいい…!」
「ちょっとちょっとお二人さん?鍵を発見したスーパーヒーローを差し置いていちゃつかないでもらえます?」
「鍵!?ほんとですか!?」
「たまにはやるじゃねえか、ナイス黒尾」
「やっくんそれどういう意味ですか???」

足首に付いた鎖を指でカシャカシャつつきながらぽつりと呟けば衛輔くんが頭をわしわしと撫でてくれる。たのもしすぎる言葉に大袈裟に両手を上げて喜んでいれば、黒尾さんが苦笑いでやって来る。その手の中にある銀色の小さな鍵の存在にじわりと涙が滲む。これで鎖の鍵じゃなかったら多分泣くけど!!

「そんな不安そうな顔しなくても…」
「うぇっ、そんな顔してました…?」
「してたしてた。大丈夫だよ、もしこの鍵で外せなくても鎖が外れるまでちゃんと一緒にいるから」
「黒尾さんも何でそんなかっこいい事言うの…」

私の足首に巻き付いた鎖の鍵穴に鍵を近付ける黒尾さんをじいっと見つめていれば黒尾さんが私を見て苦笑いを零す。そんなに不安な顔をしているつもりは無かったけれど、顔に出ていたみたいで黒尾さんが優しい顔で笑う。頭をぽんぽんと撫でられて肩に入っていた力が抜ける。

この鍵で開かなかったらどうしよう、そう思ってるのは黒尾さんと衛輔くんも同じなようで、全員がぐっと唾を呑み込んだ。ゆっくりと鍵穴に鍵が差し込まれて、くるりと鍵が回る。かちり、と軽い音がして鍵が外れる。足首に巻き付いていた鎖が外れて、いい気に足が軽くなる感覚。

「よ、かったぁ…っ、」
「あー…心臓に悪ぃ…」
「外れなかったらどうしようかと思ったわ…」
「ありがとうございますぅぅ…」

安堵で一気に力が抜ける。隣に座っていた衛輔くんにぐでっと体を預ければぽんぽんと優しく頭を撫でられて危うく泣きそうだ。私だけじゃなくて黒尾さんも衛輔くんも一気に脱力したように座り込んでいて、私が気にしようと気にしなかろうと2人に心労をかけていたんだな、と申し訳なくなる。

「よし、これで雛も動けるな」
「も?」
「ああ、他の奴らもいるんだよ」
「他って?」
「烏野の奴らとか、木兎達とか」
「そうなの!?」

話を聞けば校内に他にも誰かいるかもしれないと探していたところ、私を見つけたらしい。探しに来てくれて良かった、私1人じゃなくてよかった、そう思うだけでじわじわ涙が浮かんできて慌てて服の袖で目元を拭う。これ以上めそめそしてたらもっと心配かけちゃう。もう絶対泣かないんだ、私は。

「目擦るな、赤くなるから」
「ないてないです」
「はいはい、泣いてない泣いてない」

黒尾さんに腕を引かれてゆっくりと立ち上がり、その場で数度足踏みをする。すごい、拘束されてないってすごい。おお、と感動で足踏みを繰り返していれば衛輔くんに笑われる。歩けるようになったばかりの赤ちゃんみたいって言わないで。

「手は繋がなくても良いですか?」
「…黒尾さんおもしろがってるでしょ」
「嘘うそ。冗談だって」
「後で海くんに言いつけてやる」
「お前ら置いてくぞー」

教室を出ようと歩き始めた私に差し出された手をべし、と叩いてジト目で見れば黒尾さんがけらけら笑う。行くぞ、と手招きをする衛輔くんに飛びつくようにして教室を出れば、楽しそうに笑った黒尾さんが後ろを着いてきた。
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