後6cm

「藍川さん、俺まで補習とか勘弁なんでレポートやって欲しいんスけど」
「へぇ…いいよ」
「…は?」

レポートの期限が迫り未提出者は補習になる、という教師の言葉にこのままではまずいと思った黄瀬は嫌々ながら彩に声をかけた。絶対に拒否されると思っていた黄瀬は彩から返ってきた了承の返事に目を見開いた。

「私が断ると思ってたんだ?」
「そ、そりゃあ…」
「単純だね」
「はぁ!?どういう意味っスか!?」
「自分で考えたら?」

挑発するような意地の悪い顔で黄瀬に笑いかける彩に正直に頷けば彩が今までとは違う女子高校生らしい笑顔を零すが、彩の表情よりもバカにされた怒りの方が勝った黄瀬がぎゃんぎゃんと騒ぎだす。

「なんか…犬みたいだね。あんた」
「は!?犬!?俺がっスか!?」
「あんた以外に誰がいるのよ」
「ほんっとアンタ失礼っスね!」
「今の黄瀬は嫌いじゃないよ」
「は、それ…」
「じゃ、また明日」

じぃっと黄瀬を見た後ポツリと彩が呟いた言葉に、また黄瀬がぎゃんぎゃんと騒ぐ。嫌そうな顔をする黄瀬を見て、ふっと笑った彩が発した言葉に黄瀬の中で時間が止まったような気がした。言葉にならない言葉が口から零れ、ポカンとだらしなく口が開く。そんな黄瀬を見て、またふっと笑った彩は鞄を持ってふらりと教室を出ていった。

「な、んなんスか…あれ…」

2017/1/10 執筆

ALICE+