後5cm

「なんで俺の事嫌いなんスか?」
「顔が嫌いだから」
「え…」

レポートの提出期限が迫る中、黄瀬と彩は中庭で昼食を食べながらレポート制作に勤しんでいた。パクリとサンドイッチを口にした黄瀬はふと、彩が自分を嫌いだと言っていた事を思い出して理由を彩に聞き、返ってきた返事に少なからずショックを受けた。

「か、おっスか…」
「うん、顔。てか、笑顔?」
「笑顔?」
「後は性格」
「全部じゃないっスか!」
「あっははは!全部だわ」

ショックを受ける黄瀬に追い打ちをかけるように嫌いなところを指折り挙げていく彩に黄瀬が声を荒らげる。そんな黄瀬を見てケラケラと声を上げて笑う彩の姿に黄瀬は目を見開いた。

「笑えるんスね、藍川さん」
「そりゃあね、人間だもん」

目を見開いて驚く黄瀬に、真顔に戻った彩が冷静に返す。普通に声を上げて笑う所を初めて見たことはもちろん、ついこの間まで氷点下の冷たさだった彩が自分とこうして昼食を食べ、話をしているという事実に黄瀬は純粋に驚いていた。

「私さ、黄瀬のこと本気で嫌いだったんだよね」
「なんでまたその話なんスか…」
「人生つまんねぇみたいな顔して、女子にヘラヘラ笑いかけて、俺ってかっこいいだろ?何でもできるんだぜ?って言ってるみたいでほんっとに嫌いだったんだよね」
「はぁ!?そんなこと…!」
「黄瀬くんかっこいいって騒いでる女子共もマナーも常識もあったもんじゃないし。ほんっとファンがファンならモデルもモデルだと思ってたんだよね」
「うっ…」

黄瀬をチラリとも見ずにポンポンと彩の口から出てくる言葉に思い当たる節があった黄瀬はそんなことないと強く言うことも出来ず、ぐっと押し黙った。確かに、入学して最初の頃は何もかもつまらなかった。確かに顔も良いし、運動神経も抜群、ちょっと笑えば女子生徒はきやーきゃーと騒いでくれる。僻んでる男子生徒を見下していたのも事実だった。

「でも、今の黄瀬は普通に好きだよ」
「は、あ!?」
「何顔赤くしてんの?」
「赤くないっスけど!?」
「はいはい」

なんの前触れもなく、彩の口から出てきた言葉にガタリと黄瀬は座っていたベンチから立ち上がった。キョトンとした顔で自分を見る彩に逆ギレした黄瀬を彩は軽くあしらった。あんなに嫌いだったはずの彩に好きだと、それも恋愛感情ではない意味で言われただけにも関わらず中学生のように動揺してしまった自分に驚きながら黄瀬はベンチに座り直した。

2017/1/10 執筆

ALICE+