後3cm

「ん…き、せ…?」
「起きたっスか?」
「あ、たま…痛い…」
「熱あるっスからね、当たり前っスよ」

黄瀬が彩を横抱きにして保健室に着いた時、既に彩は眠っていた。保険医に事情を話してベッドに寝かせ、布団をかける。ゆるゆると彩の瞼が上がり、彩の目が黄瀬を捉える。頭がぼーっとしているのか、いつもより舌っ足らずな話し方に黄瀬の頬が緩まる。ベッド脇の椅子に座り、頭を撫でると気持ちよさそうに彩が目を細める。

「き、せ」
「ん?どうしたんスか?」
「なんで…そんな優しいの、?気持ち、悪い…ん、だけど…」
「ほんっと素直じゃないっスね。嬉しいなら嬉しいって言えばいいじゃないスか」
「うる、さい…」
「ほら、寝ていいっスよ」

彩がもぞもぞと布団に潜り込み布団から目だけを出す。熱があって具合が悪いのにも関わらずいつもの様に憎まれ口を叩く彩にふっと黄瀬が笑う。いつからかは分からないが気づけば彩が可愛くてしょうがなくなっていた黄瀬にとって、彩の憎まれ口はもはや可愛い、の対象でしかない。彩の目に手を置き、寝るように促すとすぐにすうすうと寝息が聞こえてくる。

「はぁ…ほんっと、勘弁して欲しいっス…」

熱のせいで赤くなった彩の頬を撫でて、自分の気持ちに気づいてしまった黄瀬はははっ、と小さく笑った。

2017/1/10 執筆

ALICE+