後1cm

「彩っち、好きっス」
「うん、ありがと」
「私も!とかないんスか…」
「今はないかな」
「ひどいっス!」

いつからか当たり前になっていた中庭での昼食。ただ、今までと違うのは黄瀬のアプローチがあからさまになったことだ。彩のことが好きだと自覚してからの黄瀬はとにかく早かった。彩を落とそうと、事あるごとにアプローチをしている。最初の方こそ戸惑っていた彩だったが、今では表情すら変えずにあしらっている。

「ねえ、黄瀬」
「なんスか?」
「好きって言ったら、どうする?」

黄瀬の毎日のアプローチは少なからず無駄では無かったようで、少しずつではあるが彩は絆されていた。最初の出会いからは考えられないほど雰囲気の柔らかくなった彩がふっ、と笑って黄瀬に向き直る。名前を呼ばれ、首を傾げる黄瀬に彩はふわりと笑いかけた。完全に一瞬思考が停止した黄瀬が彩に聞き返す。

「何回も言わせないでくれる?」
「い、いま…好きって…」
「聞こえてんじゃん」
「嘘じゃないっスよね…?」
「はぁ?なんで嘘つかなきゃいけないのよ」
「〜っ!大好きっス!」
「わ、あ!ちょっと!」

少し頬を赤くして黄瀬から顔を逸らす彩に嬉しい、愛おしい、可愛い、いろんな感情が混ざりあって感極まった黄瀬が思いっきり抱きつく。その瞬間、普段からは考えられないほどに頬を赤くする。

「彩っち、もう一回」
「やだ」
「お願いっス!ね?」
「…好きだよ、涼太」
「〜っ!反則っスよ…」

彩の肩に手を置き、もう一回と笑う黄瀬に彩が頬を赤くして顔を逸らす。尚も食い下がる黄瀬に少しむっとした後、黄瀬の耳元に口を寄せ小さな声で囁く。やられっぱなしは性にあわない彩のささやかな反抗だ。見事、その攻撃でダメージを負った黄瀬が顔を隠す。隠しきれなかった耳が赤く染まっているのを見て、彩が笑みを零した。

2017/1/11 執筆

ALICE+