みくる



さて、ワタシがSOS団に入団して一週間弱経った日のこと。この日はワタシが入団してから初めての町探索が行われた。不思議を探すという名目で行われるこの行事は、今日の午後と明日の一日中するらしい。昼過ぎに駅前に集合したワタシたちは近くの喫茶店に入って各々好きな飲み物を頼んだ後、ハルヒちゃんが即興したくじを引いた。ワタシが来る前までは2人と3人の2組だったみたいだけど、今は丁度6人なので2人ずつの3組になった。





喫茶店を後にしたワタシは、くじ引きにより決定されたパートナー――つまりみくるちゃんと公園を歩いているところ。ちなみに、後の2組は綺麗に男同士と女同士で別れた。キョンくんは去ることながら、ハルヒちゃんも心なしか不機嫌そうだったね。
前を歩くみくるちゃんはひょこひょこと覚束ない足取りで全身から愛嬌が滲み出ている。何か話す話題は無いかと辺りをキョロキョロと見回していると、丁度よさげな所にベンチと自販機があった。危なっかしい足取りでワタシと同じく公園を見回しているその愛らしい背中に声を掛ける。

「ちょっと休みません?」


ワタシがベンチに座るみくるちゃんに、自販機で購入したばかりの缶紅茶を渡すと、みくるちゃんは嬉しそうに柔らかく微笑んだ。女のワタシから見ても十二分に可愛らしい。ワタシが男なら確実にオチるね、多分。

「あのっ、紅茶……いくらでした?」

「あっ、いいよ、紅茶代くらいワタシが出すから」

紅茶を受け取ってわたわたと財布を取り出そうとするみくるちゃんを手で制止して、隣に座った。紅茶のタブを何とか上げることができたみくるちゃんに、ワタシは本題を切り出そうとみくるちゃんと同じ紅茶で口内を湿らせた。

「ありがとうございました」

突然の礼に、みくるちゃんは案の定というか、予想通りの反応を示してくれた。つまり、心当たりがないという風にその大きな瞳をパチクリとさせただけなのだが。

「この前、ハルヒちゃんのことについて許可を貰ってくれたこと」

ワタシがそう言って微笑むと、彼女は長年追い求めていた謎が解けたかのような晴れやかな表情をしたかと思うと、すぐに慌てて両手を左右に振った。

「そっ、そんな、あたしはただ報告をしただけで……」

「それでも、ワタシにとっては十分な前進になったわ。ありがとう」

みくるちゃんは「お力になれてよかったです」と、頬を赤らめて俯いた。本当にこの子は可愛いなあと関心しながら、ワタシがここで休もうと言ったのには理由があるわけで。ちびちびと紅茶を飲む彼女を余所に、缶紅茶を一気に飲み干し本題を切り出してみた。

「それから……みくるちゃんにもうひとつだけ頼みたいことがあるんだけど……」

なるべく真剣な声で話すようにとのワタシの心がけはみくるちゃんに通じたらしく、彼女も表情を引き締めてワタシと目を合わせてくれた。

「ワタシにも、キョンくんにしたのと同じように未来のことを教えてほしいの。もっと貴方たちのことを知っておいた方がいいと思って……。お願い」

頭を下げるワタシにみくるちゃんは一瞬瞳を揺らしたが、やがて意を決したようにたどたどしく説明を始めてくれた。このときワタシは、『最低限の信用は得られているな』と心の奥底で安堵の溜息を漏らしていた。





みくるちゃんの説明が終わる頃には、辺りはもう斜陽に包まれていた。西の方に目をやると日光が直に入ってきて半端なく痛い。みくるちゃんの話は大方『禁則事項』で隠れていたけど大体未来の考え方と状況は理解できた。できることなら、ワタシもみくるちゃんたちのモノと同じ方向に未来を動かすことに協力したいね。
腕時計を見たみくるちゃんは、「あっ、そろそろ戻らないと」と言って立ち上がり、近くのゴミ箱に走り寄った。ワタシもそれに続き、ゴミ箱に空き缶を投げ入れる。

「今日はありがとうございました。色々教えてくれて」

深々と頭を下げたワタシに、やはりというか、みくるちゃんは手を横に振って

「わたしはまだこれだけしか話せないけど」

と申し訳なさそうに俯いた。

「そんなことないです。みくるちゃんも、ワタシに何か出来ることがあったら言ってね」


その後、行きと同じく駅前にて集合、解散したワタシたちは明日に備えて早々と各々の帰路に着いた。