一樹
「それじゃあ、午後の班決めをするわよ!」
ファミレスにて各々の昼食を摂ったワタシたちは、ハルヒちゃんの持つ爪楊枝を1本ずつ順に引き抜いていく。話がある為、古泉くんと同じ班が望ましいワタシ。ここまで順調に来たのだから今回も……と念じながら爪楊枝を引いた。そして決定した班は、
「宜しくお願いします、キョンくん」
「いえ、こちらこそ」
「……行くわよ、有希」
「……」
「それじゃあ、僕たちも行きましょうか」
「うん」
というわけだった。最近のワタシはどうやら運気上昇中のようである。内心微かにガッツポーズ。
「どこに行きましょうか」
紳士気質なのか、いちいちエスコートしてくれる古泉くん。ワタシは辺りを見回して、丁度いい感じの店を見つけると、そこを指差した。店とは勿論、喫茶店の類。
「ちょっと、話があるんだけど……」
ワタシがそれだけ言うと、彼は分かってましたと言わんばかりの笑顔を浮かべた。
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「話とは何ですか?」
ウェイトレスさんにストロベリーティーを頼み、正面の古泉くんを見据える。
「まずはこの前のお礼を言おうと思って。ありがとう」
「この前というと、あの協力をして欲しいという話ですね」
「うん」
「それなら礼は要りませんよ。あなたが提示してきた条件は『機関』の目的そのものと大した相違はありませんでしたから。それに、許可は僕ではなく『機関』のお偉方が出したものですし」
被ったような笑顔で言う彼に、ワタシは首を横に振ってみせた。
「有希ちゃんも同じこと言ってたけど、古泉くんが居なかったら成立しなかった事だから。それから、もうひとつ」
今度はなるべく重要そうな話である空気を醸し出しながら口を開いた。流石に同じ事を3回も繰り返すとあまり緊張はしなくなってくるものだ。
「ワタシにも『機関』のことを教えて欲しいの。――『機関』の考え方と状況を」
真っ直ぐに目を見て言うワタシに、古泉くんは細く目を開く。
「それは何故僕に?」
「ワタシもハルヒちゃんを取り巻く状況を知っておきたい。情報が少ないといざっていう時に動きが取りづらいから。それに、ワタシには情報を提供してくれるバックが居ないから、身近なところから情報を得るしかないの」
そこまで話すと、ワタシの願いを汲み取ってくれたのか、古泉くんは組んでいた腕を解いて口を開いた。
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彼の話が終わる頃には紅茶は既に運ばれていて、中身も既にあと1口程度だ。最後の1口を飲み干し、ワタシは古泉くんに深々と頭を下げる。
「ありがとう、話を聞かせてくれて」
頭を上げたワタシに、彼は柔らかい笑みを浮かべる。
「構いませんよ。僕にできることは極僅かしか許されていませんから」
どこと無く自嘲気味な笑みに後ろ髪を引かれながらも、ワタシたちはそこで話を切り上げ店を後にした。
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不機嫌面のハルヒちゃんが皆から特に何も変わったことは無いという報告を受け、不機嫌を振りまきながら解散を命じる。取り敢えずは今日でワタシのやらなければならないことは1区切りがついた。後は皆からの信頼を得つつもハルヒちゃんをサポートするくらいか。こればっかりは地道になるだろうと考えつつ深い溜息をつく。
ワタシの目的は自分の世界を守ることにある。そうなってしまった元凶であるハルヒちゃんの力は無くなることはあるのだろうか?もし無くならないのなら、ワタシはずっとこの故郷ではない世界に滞在することになるのか。そんな事を思い、少しだけ……ほんの少しだけ憂鬱になった。……――あ、でも
「もうちょっと、皆のことは知りたいかも」
なんて思うのは、お人好しの印なのだろうか。